大倉忠義と広瀬アリスの“ディスコミュニケーション” 『知ってるワイフ』にみる夫婦の問題

『知ってるワイフ』から読み取る夫婦の問題

 愛し合って結ばれた2人はいつまでも幸せに暮らしました。なーんてことが夢物語であることを私たちは知っている。なぜなら「結婚」の次には「生活」という名の「日常」が待っているからだ。

 そんな夫婦の現実を軽いタッチでコーティングしながらガツンと描くドラマがある。大倉忠義と広瀬アリスがどこにでもいそうな夫婦を演じ、O.A.のたびに“妻の怒りがリアルすぎて怖い”“ウチの夫とまったく同じ”とネットをザワつかせている『知ってるワイフ』(フジテレビ系)である。

 本作は韓国で2018年に放送された同名ドラマを基に再構成されているのだが、両方視聴してみると日本版の方がよりキツい。なぜそう感じるのだろう。

 日韓の微妙な描写の違いがもっとも如実に表れたのが第1話の夫の回想シーン。夫婦がスーパーで大量に買い物をし、レジの順番までもう少しというところで、夫が髭剃り用品を買い忘れたと言い出し、すぐに戻ると妻に告げて並び列から抜ける。

 この時、日本版だと妻の澪(広瀬アリス)は幼い長女の手をつなぎ、さらにまだ立てない長男を抱っこひもで体の前に抱えながらカートを押している。グズる子供たち、周囲の視線、思うように動かせない体。レジの順番が来ても夫は戻らず、仕方なく澪は列を抜ける。やっと帰ってきた夫・元春(大倉忠義)は、替え刃のほかにキッチンペーパーも手に持ち「キッチンペーパー大特価~」と無邪気に笑う。そこで爆発する澪「ふざけんなよ!」

 かわって韓国版だと買い物をしているのは夫婦2人のみで、その場に子供はいない。妻のウジン(ハン・ジミン)は1人でレジの列に並び、夫のジュソク(チソン)は自分が必要なシェービングジェルだけを手に戻ってくるのだ。

 韓国版が自分の思う通りに相手が動かなかったことに怒る妻と、天然風味の夫という関係性を前面に出しているのに対し、日本版では「子育ての苦労を何もわかっていない」と怒る妻と、「良かれと思って安売りのキッチンペーパーも持ってきたのに怒鳴られ呆然とする夫」という夫婦のディスコミュニケーションがシビアに描かれる。その場の子供の有無で表現されたこの違いは大きい。

 また、韓国版の妻=ウジンの仕事はエステティシャン。富裕層のマダムに施術をする中で、彼女からバリ旅行の自慢話を聞かされ、見下された態度を取られる。対して日本版の妻=澪のアルバイト先はファミレス。自分は子供たちを保育園に預け、親子で食事に来ているお客にサーブをする業務だ。

 ここでも、韓国版のウジンが女性としての痛みを強く認識しているのに対し、日本版では働く母親としてのつらさが澪からにじみ出ていたように思う。

 そして、日韓共通のキツさが妻の母親に対する夫の無関心さ。若年性アルツハイマーらしい母親のことを心配し、そのことを夫に相談しようとしても、夫の関心は妻の母の状態ではなく、義母が作る肉じゃがやキムチの有無。うう、書いていて何とも言えない気持ちになってきた。

 さらに、元春もジュソクも家庭の愚痴を話せる同僚や友人がいてガス抜きができているのに対し、澪やウジンにそういう仲間がいる描写はない。妻たちは結婚を機に、それまで築いたキャリアとは違う職種の仕事に就きながら、家事と育児、そして母親の介護にと孤独に走り回っている。

 と、ここまでの流れだと、完全に夫である元春やジュソクが悪いようにも思えるが、それは違う。

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