『おちょやん』が描く力強く生きる女性たち 朝ドラの“お約束”、山村千鳥一座の再登場を願って

『おちょやん』が描く力強く生きる女性たち

子供がいても夢をあきらめない洋子

 千代が住み込みで働く「カフェー・キネマ」の1番人気・若崎洋子(阿部純子)。彼女も女優になることを夢見るひとりだ。

 一見華やかで大人に見える洋子。が、彼女にはある過去が。それは離婚歴があり、ひとり息子を広島にいる元夫が育てているという事実。

 息子・進太郎(又野暁仁)の着ている服は上等で(蝶ネクタイまで付けている)、元夫には経済力があることが見て取れるし、京都に暮らす元妻のもとに息子を預けていることから、離婚後もふたりの関係は悪くないと思われる。

 とはいえ、この時代に、家や家族より仕事や夢を取った女性に対する世間の風当たりは優しくなかっただろう。それでも洋子は自分が自分として生きる道を捨てきれなかった。そこにどれほど強い思いがあったことか。

 「正チャンの冒険」の舞台を観ながら、ふと進太郎に笑顔を向ける洋子。ただ母親として息子と対峙する彼女の表情は柔らかい。進太郎を送り出した後は、またひとつの椅子を争う戦いが始まるのだ。

誰よりも厳しく、誰よりも脆い山村千鳥

「自分が最も嫌っていた見下す側の人間にいつの間にか自分もなっていた」

 下手ではあるが千代の本気の芝居に沸く観客の姿を見て、演技者としての自らのおごりに気づいた山村千鳥。彼女は一座を解散し、全国を回る修行の旅に出ると千代に告げる。

 思えば不思議な関係だった。師弟関係でありながら、物おじせずに千鳥にぶつかっていく千代と、そんな彼女に影響され、次第に固まった心がほどけていく千鳥。人としての精神年齢は千代の方が上だったのかもしれない。

 千鳥が「大嫌い」と高城百合子(井川遥)の名を口にする時、私にはその裏にある「あんな風に生きたかった」「羨ましい」という叫びが聞こえる。百合子を空に輝く太陽、自らを夜の暗闇に例える千鳥。人は人、自分は自分と開き直れない彼女の弱さが突き刺さる。

 そんな「大嫌い」な百合子が活躍する鶴亀撮影所に千代の紹介状を書き、四つ葉のクローバーの押し花で作ったしおりをぶっきらぼうに渡す千鳥。彼女なりの精一杯のはなむけ。最後の最後まで最高のツンデレぶりだ。

 千代のモデルとなった浪花千栄子の自伝『水のように』によると、浪花を映画会社の「東亜キネマ」に推薦したのは彼女が立っていた舞台の劇場主。当時、下降気味だった「村田栄子一座」(村田栄子=山村千鳥のモチーフと思われる女優)から抜け、映画の世界に行くよう劇場主から後押しされたとのこと。が、そんな史実よりドラマの方がずっといい。

 実際の村田栄子は浪花が一座を抜けたすぐ後に舞台で倒れ、30代の若さでこの世を去っている。だが、山村千鳥は新たな自分と出会うために、全国を周る“冒険”の旅に出た。朝ドラでは物語の終盤に、それまで登場したキャラクターが再び現れるのがお約束。「あなたの困った顔を見に来たわ」そう不敵な笑みを浮かべる千鳥にまた会いたい。

 大好きだったよ、千鳥さん。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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