『私をくいとめて』から考える“新しい恋愛ストーリー像” いかに女性が“変わらない”でいられるか

『私をくいとめて』の新しい恋愛ストーリー像

 また、『あまちゃん』で共演していた橋本愛とのツーショットがふたたび見られるというのが、本作の目玉の一つとなっている。橋本の役は、みつ子の学生時代からの友人であり、いまは結婚してイタリアに住んでいる女性である。彼女に会いに行ったみつ子は、イタリアでそれなりに充実した旅行を経験するが、よくよく考えてみると、自分は彼女のダシにされたのではないかと反感を感じることになる。

 ヨーロッパの先進国のなかでは人種差別や女性差別がまだまだ根強いところがあるイタリアだが、それでもジェンダーギャップ指数は76位であるなど、日本と比較すれば先進的な考えが通用する国である。ここに居を構えて毎日を過ごしている、みつ子の友人は、自分が見限った日本でみつ子が相変わらず押しつぶされそうになっているのを確認して、自分の正しさを確認したかったのではないか。

 このように、外部の価値観との対比を含めながら、本作が真に映し出していたのは、女性たちの生きる姿を通すことで姿を表す、社会の実相なのである。そこで女性たちは変化を求められるが、何を変えるのか、何を変えないのかが重要なテーマになり得る。そして、このような状況における新しい恋愛ストーリーとは、“いかに女性が変わらないでいられるか”ということに焦点が定まっていくのではないだろうか。

 現在のアメリカでいま読まれている日本の古い作家は、樋口一葉だという話題を最近目にした。本作のテーマにおける『たけくらべ』との共通点は、やはり社会環境のなかで変わらざるを得ない理不尽に対する、女性である作者の憤りだ。日本でも、創作においてこのあたりがこれからの関心事になっていくことは充分考えられるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『私をくいとめて』
全国公開中
原作:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督・脚本:大九明子
音楽:高野正樹
劇中歌:大滝詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり、橋本愛
製作幹事・配給:日活
制作プロダクション:RIKIプロジェクト
企画協力:猿と蛇
(c)2020『私をくいとめて』製作委員会
公式サイト:kuitomete.jp
公式Twiter:@kuitometemovie

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