『ほん怖』×CMキャラクターの取り組みは成功? 『4つの不思議なストーリー』は心温まる物語に
同じく“人のために突き動かされた”のは、『夕暮れの迷子』の葵わかな演じる森山莉子だ。母親とはぐれてしまったと泣いている迷子の女の子を放っておけず、交番まで一緒に行くことになる。女の子は基本的に泣きながら「お母さん」という言葉しか発さない中で、距離が徐々に縮まり、互いの主張の折衷案にたどり着けている関係値が見事に描かれていた。お寺の前に着くなり及び腰になってしまう女の子、ここに来てしまうと自分がこの世にはいられないことを何かしら察知していたのか、それでもここに来られたからこそ女の子は母親と無事会うことができたのだ。4話の中では最もゾクっとする展開が待ち受けるストーリーだが、ふと居合わせた“誰か”の事情に巻き込まれることでしか巡り合えないご縁や景色があるのも確かだ。親しい仲間との「目的」ありきの約束しか難しいコロナ禍においては、なかなかこのような“想定外”も起こりづらく、自身の常識や行動範囲を超えた世界と出会う機会はほぼ皆無になってしまっていると言えるだろう(だからこそ、自分の日常外を見せてくれるエンタメの力がまた見直されているとも言える)。
ラストを飾ったのは、柳楽優弥主演の『不思議なお守り』。通りがかりの人に渡された古びたお守りのおかげで幸運ばかりが続くが、反面周囲はプチ不幸に見舞われ続ける。確かに、なんだかパッとしないサラリーマン田島凌介がお守りを手にするなり運を味方につけていく変化感を見事に柳楽が体現していた。お守りの力に支配されそうになりながらも、やがて「本当の幸せ」の正体に気づきお守りを手放そうと決意するまでの葛藤もコミカルさを交えながら描いていた。自分一人だけが「ツイている」よりも、ラッキーなこともそうでないことも日常の些細なこと、とるに足りないことを報告し合える相手がいることの方がよほど幸せなことだと、我々が2020年の1年間を通して嫌というほど実感させられたことを再確認できる内容だった。
合間に挟み込まれる松坂桃李と高畑充希による語りと挿入映像も短時間ながらもよくできたストーリーで、次の話への潤滑油の役割を果たしていた。目に見えない脅威をずっと感じ続けた今年、不可思議な事象の原因がわかり、そこからむしろ登場人物たちが幸せや前進を手にした本作の結末になんだか勇気づけられもした。
■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter
■放送情報
土曜プレミアム『4つの不思議なストーリー~超常ミステリードラマSP』
フジテレビ系にて、12月26日(土)21:15~23:25放送
出演:松坂桃李、高畑充希、柳楽優弥、土屋太鳳、中川大志、葵わかな
企画:後藤博幸
プロデュース:古郡真也(FILM)
演出:森脇智延、下畠優太
脚本:酒巻浩史、穂科エミ、中村允俊
制作・著作:フジテレビ第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/yottunohushigi