『恋あた』幸せいっぱいな2021年を期待するラストに ドラマを通して共有する甘い時間
今年はいろんなことがありました。甘いものは、人を幸せにします――。
『この恋あたためますか』(TBS系)が、ついに最終回を迎えた。なんて甘美なドラマだったのだろう。シュークリーム、プリン、ケーキと劇中に出てくる数々のコンビニスイーツはもちろんのこと、恋をして仕事に奮起するキラキラとした眼差しも、好きな人を前にとろけるような声色も、ほろ苦い失恋に流した美しい涙も、心の痛みを乗り越えた優しい笑顔も……全てが甘くて愛しい。
心の奥に押し込めようとしていた樹木(森七菜)の、浅羽(中村倫也)への恋心。マコっちゃん(仲野大賀)の誠実な想いに応えて、前に進もうとも思っていた。だが、そんなときに突然の浅羽からの告白。「今さら何を……」と拳をテーブルに叩きたくなるほど憤るのは、気を緩めるとすぐにでも浅羽への恋が溢れてしまうから。
「クリスマスは誰と過ごしたいか」、その答えはずっと前から決まっていた。でも、いざそれを言葉にしてマコっちゃんに伝えるのは、あまりにも胸が締め付けられる思いがして涙が次から次へとこぼれ落ちる。もちろんマコっちゃんも、わかっていた。好きな人の好きな人が本当は誰なのかなんて。一番見つめてきた自分が知っていたのだから。
精一杯の強がりを見せて、樹木に浅羽のもとへ行くように促すマコっちゃんに、多くの視聴者が心を動かされた。救いだったのは、そんな彼を『ココエブリィ』上目黒店の店長・上杉(飯塚悟志)とアルバイト店員・碓井(一ノ瀬颯)が受け止めてくれたこと。カラオケで悔しさを噛み締めながらくちゃくちゃにして「出会えて感謝してます」と泣く姿は、まるで全力を尽くして完敗した高校球児のごとく眩しかった。
そんな彼の姿を見ていて今一度「今年はいろんなことがありました」というフレーズを思い出した。マコっちゃんのように誰もがもがいて抗って、それでもどうにもならなかった1年だった。なかには二度と戻らないかけがえのない甘い季節が、手からすり抜けてしまった人もいただろう。
その歯がゆさや辛さを、こんなふうに誰かにぶちまけて一緒に過ごすこともできない年末だ。今年は、どこかクリスマスムードも例年のような盛り上がっていないようにも感じる。そんな2020年を過ごした私たちは、体当たりで自分の想いを貫こうとするマコっちゃんの姿に共感し、そして『ココエブリィ』上目黒店の仲間たちが繰り広げるハートフルな交流に、少しだけ夢を見る。
こんなふうに恋をして、報われたり破れたりしながら、過ごす甘い日々があったはずだった、と。でも、それが今はできないからこそ、こうしてドラマを通して私たちは甘い時間を共有しているのだ。
実らない恋が、生涯心をあたため続ける思い出になるように。その痛みを感じるほど大切だと思えるものに出会えた喜びを噛みしめるように。マコっちゃんにとって樹木への恋が、そして私たちにとって2020年の日々が、いつか「あの時期があったからこそ、今の幸せをより実感できる」と思えるようになってほしい。
そして、晴れて両想いとなった樹木と浅羽のハッピーな様子にも、改めて心が弾む。“そうそう、キラめくイルミネーションの中、甘いケーキを大好きな人と一緒に食べるって幸せなことだった”と思い出させてくれる。それは、どこだっていいのだ。高級レストランでも、職場でも、コンビニでも。一緒に過ごす相手も恋する人はもちろん、気のおけない友だちでも、同じ何かを愛でる仲間でも、これから家族でになろうとする人とでも。