赤楚衛二、『チェリまほ』安達役でスター街道へ 俳優としての3つのストロングポイント
俳優は、自分にぴったりの役を振られたとき、ひときわ輝く。今期、そんな当たり役を掴んだのが、ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称:チェリまほ)(テレビ東京系)で主演を務める赤楚衛二だ。
赤楚が演じるのは、童貞のまま30歳を迎えたことにより、ふれたら人の心が読める魔法が使えるようになった主人公・安達清。その魔法を通じて知ったのは、同期のエリート・黒沢(町田啓太)が自分に想いを寄せていること。思ってもみない事態に戸惑いながらも、安達は黒沢との関わりを通じて“人から愛されること”“人を愛すること”を知っていく。
そんなピュアで優しいラブコメディの核を担っているのが、安達を演じる赤楚の演技だ。自分に自信がないために人と深く向き合うことを恐れ、それでも少しずつ変わっていこうとする安達という役に、赤楚の演技が絶妙にマッチしている。『チェリまほ』から見える俳優・赤楚衛二のストロングポイントについて考えてみたい。
安達の成長を、赤楚衛二は目で語った
まず目を引くのが、役のグラデーションを表現する力だ。『チェリまほ』は恋愛ドラマであると同時に、自尊心の低い安達の成長物語でもある。黒沢との恋を通じて、安達がどう変わっていくか。その変化が鮮やかであればあるほど、視聴者の感動は増幅する。
そこで改めて第1話と、先日放送された第10話を見比べてみると、安達の表情がまるで別人のように違っていることがわかる。最も顕著なのは、目の輝きだ。第1話の安達は黒目に光が少なく、視線もぼんやり。人と話をするときも目線はすぐ下を向き、弱ったようにハの字になる眉がいかにも頼りない。
それが、黒沢と交際中の第10話になると、丸い黒目がキラキラと輝き、第1話では見せなかった目が半月状になる笑顔を何度も浮かべている。黒沢から愛されることで少しずつ前向きになる安達の成長を、赤楚は目の輝きで語ってみせた。
ターニングポイントとなったのは、黒沢のピンチを救った第5話だろう。「俺でも黒沢の役に立てたんだ」とコピー機に顔を突っ込んで喜びを噛みしめるところから、蕾だった安達の可愛らしさがどんどん花開いていった。すっかりおなじみとなった「うんまっ!」のフレーズから、トコトコとバイキングに乗り込む仕草まで、一挙手一投足がまるで小動物のようなあいくるしさ。恋をすると人は明るくなるという風説を言動からナチュラルに証明してくれているので、観ている方もつい応援したくなる。
次に光っているのが、イキイキとしたリアクションだ。エレベーターホールで黒沢を見つけて思わず身を隠すところや、柘植(浅香航大)との関係を黒沢に誤解されそうになって慌てて訂正するところなど、ことあるごとにテンパる安達は、そのたびに大きく腕を振ったり、声を裏返らせたり、目を丸めたりする。こうしたオーバーリアクションは失敗するとサムく見えるのだけど、絶妙にフィットしているのが赤楚の巧みなところだ。
赤楚のリアクションが自然なのは、動き先行ではなく、感情先行で芝居ができているから。こういう動きをしようという自意識が前に出ると、どんなリアクションも白々しく見える。そこを赤楚は、まず安達の驚きや混乱という感情をしっかり捉え、その発芽としてリアクションへと展開している。そして、赤楚の演じる安達ならこんなふうに動きそうという共通認識をしっかり視聴者と共有できているから、ちょっとオーバーサイズのリアクションも違和感なく楽しめるのだ。
こうしたリアクションの良さを踏まえた上で、3つめのストロイングポイントを挙げるなら、高いコメディセンスだろう。「まぶしっ」「近いな」など、赤楚は短い切り返しの台詞が抜群にうまい。ここで緩急が生まれることで、つい視聴者はクスッとさせられてしまう。他にも「こんな能力、まじでいらねえ!」「これじゃ心臓がもたない!」など勢いがないと成立しないモノローグも多数あるが、どれもデフォルメが効いていて面白い。
『チェリまほ』が愛されるのは、視聴者の目尻が思わず垂れるような純度の高いラブストーリーであることもさることながら、コメディとしてのノリの良さも大きい。各話30分という短いお話の中で、毎回笑ってツッコめる要素が散りばめられているから、親しみが持てるのだ。黒沢や柘植が豪快なストレートで笑いを決めてくるタイプなら、安達はチェンジアップ。その即妙さで、掛け合いにリズムを生んでいる。