『神様になった日』の“原点回帰”は何を示す? 麻枝准×P.A.WORKSの総決算としての真価を探る

 今作のキャッチフレーズとして“原点回帰”という言葉が公式サイトになどにも掲げられているが、麻枝の原点となる作品を挙げておきたい。それが村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』だ。麻枝はとても強い影響を受けたと公言しているが、2つの世界が描かれている様子などに『CLANNAD』や『Angel Beats!』が影響を受けていることを指摘する声もある。本作においても、謎の多い登場人物、鈴木央人の特殊な能力なども鑑みると、今作ももう1つ上位的な存在となる世界がありうる可能性を示唆しているようにも感じられる。

 もう1つ、原点回帰という言葉が示すものは、麻枝の半生をなぞることが挙げられるのではないだろうか。作中の映画制作を、多人数で行う総合芸術活動であるゲーム制作、あるいはアニメ制作に置き換えることもできるだろう。麻枝自身、大病を抱えていることを告白しているが、その中でも創作活動を続けている。これはひなと同じ目線の物語ということもできるのではないか。本作はエンタメとして昇華されているものの、ひなと陽太の2つの目線を混ぜることにより、麻枝准の半自伝的な物語になるようにも受け取れる。

 P.A.WORKSはオリジナル作品の制作を多く行い、地方発のスタジオとしても知られているが、過去作を考えても、その可能性は十分あるようにも感じられる。人気脚本家、岡田麿里を監督に起用した『さよならの朝に約束の花をかざろう』を参照したい。この作品は岡田の作品や著書でも特に大きく取り上げられている“母と子”の関係性に注目している。岡田の半自伝的な要素も多く出ているのだが、それと同じことをしたのではないか?

 オリジナル作品ということもあり、今作がどのような着地点を迎えるのかは、想像もできない。だが、そこにはクリエイター・麻枝准の総決算であり、半生を反映し、そして代表作となる……そんな予感を感じさせてくれる作品だ。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame

■放送情報
『神様になった日』
TOKYO MX、BS11ほかにて、毎週土曜24:00~放送
原作・脚本:麻枝准(VISUAL ARTS/Key)
キャラクター原案:Na-Ga(VISUAL ARTS/Key)
監督:浅井義之
出演:佐倉綾音、花江夏樹ほか
アニメーション制作:P.A.WORKS
(c)VISUAL ARTS / Key / 「神様になった日」Project

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