『少年寅次郎』の“朝ドラ”化も期待したい すべての出演者を生かす岡田惠和脚本の真髄

『少年寅次郎』の“朝ドラ”化も期待

 昭和17年10月、まだ光子も、大好きだった兄・昭一郎(山時聡真)も生きている頃。家で臥せっている昭一郎のために、光子がりんごをする。それが美味しそうで、寅次郎は仮病を使って兄と一緒に寝るが、終日寝ることがいかに辛いか身をもって知ってしまう。甘いだけでなく、苦さを伴ったりんごの思い出。

 さすが、自作の出演者を大事にする岡田惠和。光子も、昭一郎も、ちび寅次郎も、お父さんの平造(毎熊克哉)も、 正吉(きたろう) も御前様(石丸幹二)もみんなの出番を書いている。さくらはかわいい赤ちゃん。もちろん、おいちゃんこと竜造(泉澤祐希)も、おばちゃんことつね(岸井ゆきの)も。

 子供時代は、やっぱり光子の存在が大きい。岡田にとっては、井上真央はNHK連続テレビ小説『おひさま』のヒロインであるから思い入れもひとしおのように感じる。時系列で描いていくと、光子は亡くなって、ちび寅次郎も成長してしまい、退場せざるを得ないわけだが、大人になったいわゆる寅さんの活躍も観たい一方で、この時期の車家と柴又の街の物語ももっと観ていたい。そう思わせる少年時代編。

 いっそ、成長してからの旅の物語を夜の時間帯で、子供時代の柴又の家族の話を朝ドラでやってみてもいいのではないか。井上真央、泉澤祐希、岸井ゆきのなど朝ドラ出演者がたくさん出ているからか、朝ドラ感が強い。毎熊も森も朝ドラ出演者だし、「おさらいしておきましょうね」のナレーション(原由子)の調子が『ひよっこ』(NHK総合)のナレーション(増田明美)を思わせる。寅次郎の少年時代は、老いも若きも楽しめる、古き良き、家族やご近所さんの物語は、朝ドラにふさわしいコンテンツではないだろうか。

 スペシャルの後編は、寅次郎が1年ぶりに帰ってきたお話。竜造、つね、さくらはいるが、光子の葬式で大喧嘩した平造は……。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
『少年寅次郎スペシャル』
NHK総合にて放送
前編:12月4日(金)22:00~22:45
後編:12月11日(金)22:00~22:45
出演:井上真央、藤原颯音、井上優吏、毎熊克哉、泉澤祐希、岸井ゆきの、石丸幹二、森七菜、井頭愛海、野澤しおりほか
原作:山田洋次『悪童 小説 寅次郎の告白』
脚本:岡田惠和
音楽:馬飼野康二
語り:原由子
写真提供=NHK

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