2020年を背負うキラキラ映画!? 『10万分の1』が描く、“なんでもない日常”への愛おしさ

『10万分の1』が描く“日常”への愛おしさ

 キラキラ映画において、「難病」という設定が登場することは少なくない。それは単純な恋愛模様を複雑化させ、病を通して未熟な若者たちを成長させるはたらきを見せたりもする。しかしやっかいなのが、物語展開に起伏を与えるいわば“機能”として、「難病」を扱ってもいいのかという問題である。これらを揶揄する「難病モノ」という言葉もあるくらいだ。筆者としては、観客の感情を揺さぶり、涙を流させるためだけの機能としてこれが取り入れられるのは許しがたい。感動ポルノであってはならないと思う。だが本作には好感が持てる。それは、冒頭で述べたように“なんでもない日常”への愛おしさを浮かび上がらせている点だ。

 “なんでもない日常”を送ることが少しずつ困難になるにつれ、莉乃も蓮もその大切さを実感する。演出面においても、序盤では演者の身体的な動きが多く見られるため、後半ではその欠如が強調されることになる。やがて莉乃は、自らの意思によって恋人に触れることすら叶わなくなっていく。これにはどうも、コロナ禍に入って以降の、私たちの“ソーシャルディスタンス時代”をも彷彿とさせるものがある。莉乃にふりかかったものとは大きく異なるものの、いまの私たちもそう簡単に他者に触れることは叶わない。そこで思い出されるのが、今は昔、“なんでもない日常”のことだ。こんなにも他者に触れることが難しい時代がやってくると、誰が想像していただろうか。しかし、そんな2020年なのである。

 本作のクライマックスでは、学校、ひいては教室という小さな社会が、莉乃を受け入れる様子が描かれている。助け合いの精神を分かりやすく訴えた、少々くどい演出がなされてもいるが、だからこそこのメッセージは世代を問わず広く伝わると思う。莉乃を襲った悲劇は“10万分の1”の確率のものだが、その彼女を生涯かけて支えていこうとする運命の相手との出会いは、もっともっと確率が低いことだろう。それはやはり、奇跡だとしかいいようがない。果たして私たちは、この奇跡に気づいているだろうか。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『10万分の1』
全国公開中
出演:白濱亜嵐、平祐奈、優希美青、白洲迅、奥田瑛二 
原作:宮坂香帆『10万分の1』(小学館『フラワーコミックス』刊)
監督:三木康一郎
脚本:中川千英子
配給:ポニーキャニオン、関西テレビ放送
(c)宮坂香帆・小学館/2020映画「10万分の1」製作委員会
公式サイト:100000-1.com

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