『鬼滅の刃』大ヒットの理由は原作とスタジオの相性にあり? TVシリーズと劇場版の表現から探る

アニメと劇場版から『鬼滅の刃』ヒットを考察

 本作は、まっすぐな正義を描きながらも、見方を変えれば、同じ目的と思想を持つ集団が命を捧げるカルト的な状況を後押ししてしまう面もある。この精神的な一体感によって不幸という痛みを麻痺させようとする、麻酔の気持ちの良さは、ある意味で『君の名は。』(2016年)における、日本神話を根拠に日本全体が災害から癒されるような、大きな価値観に吸い込まれていく感覚に近いところがある。良くも悪くも、自覚的にしろそうでないにせよ、背景にはこのようなものが渦巻いているという点については、意識しておいた方がいいだろう。

 クライマックスはこれでもかとエフェクトが乱れ飛び、ufotableの実力を、これ以上は困難だと思えるほど最大限に投入した凄まじさを見せる。その意味で本作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、原作の持つ力と、そのポテンシャルを極限まで引き出すことで、まさに炎のような熱を放つことに成功した、現時点での『鬼滅の刃』を象徴する一作となったといえる。原作だけでも、スタジオだけでも、この境地に達することはできなかっただろう。『鬼滅の刃』は、それぞれに足りないところを補い合うことで、多くの観客を熱狂させる劇場版へと昇華したといえるのだ。

 ここまで述べてきたことは、あくまでヒットへと至る要素に過ぎないが、同時に核となる部分でもある。『君の名は。』が大ヒットして以来、高校生の男女を主人公とした同様の企画が乱立したが、今後は『鬼滅の刃』を意識した劇場アニメーションの企画が増えてくる可能性が大きい。だが、設定など作品の外形的な特徴ではなく、このような核となるものを見ることが最も重要なのではないだろうか。むしろ多様性を持った作品を増やしていくことが、今後の日本のアニメーション、映画館を盛り上げていくことになるはずである。

※禰豆子の「禰」は「ネ」に「爾」が正式表記。
※煉獄杏寿郎の「煉」は「火」に「東」が正式表記。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔、石田彰
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

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