『恋する母たち』恋愛ドラマの名手は“心の殺人”をどう描くのか 心の隙間に現れる3人の男性たち
今回のMVPは間違いなく、阿部サダヲ演じる丸太郎だろう。まりを口説くためにポンと120万円をポンと使い、磨き上げた芸をこれでもかと見せつける。やはり人生をかけてきた仕事には、人を魅了する力がある。サラリと腕に触れる馴れ馴れしさに、まりと同じく最初は警戒していた視聴者も、グイグイとその魅力に引き込まれたのではないだろうか。
同様に、小泉孝太郎演じる斉木、磯村勇斗扮する赤坂も、それぞれの魅力で視聴者もろとも落としにかかってくるに違いない。「1回だけなら引き返せる」「ちょっと自信を取り戻したかっただけ」「本気にならなければ大丈夫」……と言いながら、ここから徐々に彼女たちが恋に堕ちていく姿が容易に想像できる。
だが、このふわっとした気持ちこそが「不倫」への一歩。まりが、将来の夢を定めることができずに勢いで「ラッパーになろうかな」と言った息子に対して、“家を出ていく覚悟”を説いていたように。今の生活を捨ててでも人生をプラスにする覚悟もなく、目の前のマイナスをちょっと埋めるような気持ちなら、きっとそれは引き返して、別の道を探すべきかもしれない。夢も、恋も、聞こえはやさしい言葉だが、覚悟次第で人生の劇薬となるのだから。
かつては「芸の肥やし」「文化」なんて言われてきた不倫も、現代では「心の殺人」とまで言われているほど、世間の眼差しは冷ややかなものになった。不倫スキャンダルは、当の本人が信用を失うだけでなく、同じ悲しみを経験した人たちの傷をえぐることにもなりうる。
しかし、だからといって刑事ドラマで殺人事件が欠かせないように、大人の恋を描く上でインモラルな恋愛は決してなくなることはないのかもしれない。
願わくば、どうかこれ以上不倫で傷つく人が増えないように。不倫はドラマで楽しむものであってほしい。そして、同じように母として女としてモヤモヤを抱えている人たちの心を、軽くしてくれるような作品となることを期待している。
■放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:木村佳乃、吉田羊、仲里依紗、小泉孝太郎、磯村勇斗、森田望智、瀧内公美、奥平大兼、宮世琉弥、藤原大祐、渋川清彦、玉置玲央、矢作兼、夏樹陽子、 阿部サダヲ
原作:柴門ふみ『恋する母たち』(小学館 ビックコミックス刊)
脚本:大石静
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
演出:福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS