ルル・ワン監督が『フェアウェル』で描いた“文化間の軋轢” 印象的なラストシーンの意味とは?

『フェアウェル』ラストシーンが意味するもの

 本作のラストでは、ルル・ワン監督の実際の祖母ナイナイの姿が映し出される。そして、余命宣告された期間を大幅に超えて、現在も元気に生きていることが分かるのだ。

 あれだけ周囲がナイナイのために右往左往し、感動的な別れの挨拶をしながら、いまもまだまだ元気だったという結末は、観客を拍子抜けさせるオチとなりながらも、同時に温かく幸せなフィナーレとなっている。確かに、この結末から得られる幸福感を他の人にも体験させたいと、本作を口コミで薦めたくなった観客たちの気持ちは分かる。そして、ナイナイに余命の告知をしなかったことが、もしかしたら彼女の健康を維持することにつながった可能性もあるのである。

 ルル・ワン監督は、映画が完成する頃にはナイナイは亡くなっているものだと予想して、悲しみのなかで撮影を進めていたはずだ。しかし、素晴らしいことにナイナイは映画の完成後も元気なままなのだ。

 そこで、新たな問題が生まれてしまう。監督は、本作『フェアウェル』が本物のナイナイの暮らす地域の映画館で公開されてしまうことで、あの結婚式がじつは偽物であり、彼女が末期ガンで余命宣告されていたことが、ついに本人にバレるのじゃないかと、気が気ではないようなのである。そう、ナイナイと監督とのドラマは、映画の外でまだ続いていたのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『フェアウェル』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本:ルル・ワン
出演:オークワフィナ、ツィ・マー、ダイアナ・リン、チャオ・シュウチェン
配給:ショウゲート
2019/カラー/5.1ch/アメリカ・中国/スコープ/100 分/原題:The Farewell/字幕翻訳:稲田嵯裕里
(c)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:farewell-movie.com

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