『半沢直樹』と『梨泰院クラス』、日本/韓国のヒットドラマで“土下座”を描く背景とは?
この夏、「土下座」を大きな特徴とする作品が日本中を大いに沸かせた。『半沢直樹』続編(TBS系)と、韓国ドラマの『梨泰院クラス』だ。
パワハラ防止法も今年6月から施行になった現在では、ますます時代遅れの印象が強いにもかかわららず、「土下座」をさせることが大きなポイントとなる2作が、なぜ人気なのか。2作が描く「土下座」を改めて振り返ってみたい。
「土下座」が“形式美”と化していった『半沢直樹』
『半沢直樹』の場合、まずは前作で描かれた「土下座」と今作とでは、そのニュアンスが大きく異なる。
前作では、工場の経営不振にあった半沢直樹(堺雅人)の父(笑福亭鶴瓶)が、大和田(香川照之)にネジの技術力を説明しながら、土下座して融資を請うた。この時点では懇願の土下座だったわけだが、大和田は拒否し、追い詰められた父は自殺。そこから、半沢直樹が銀行の不正に立ち向かう決意をすることになる。
そんな半沢がまず土下座させた相手は、上司である浅野支店長(石丸幹二)。半沢は浅野から西大阪スチールへの融資を命じられたが、西大阪スチールが粉飾決済で倒産。その責任を押し付けられる。しかし、浅野が5000万円を不正に受け取っていたことを突き止め、見事5億の回収にも成功した半沢は、浅野が約束した通り「土下座」させたのだった。
しかし、そんな半沢も、大和田に土下座をさせられる。それは、伊勢島ホテルの経営立て直しが絶望的になった際、担当をかえると言う大和田に対し、時間をくれと言い、「誠意を見せろ」ということで要求されたためだった。当然ながら屈辱的行為だが、自分の「目的」のために土下座を選択した半沢の顔は、苦渋というより清々しさを覚えるものでもあった。
しかし、そこまでの「土下座」の記憶を吹き飛ばすほど強い印象を残したのが、大和田の土下座である。大和田は、ホテルへの融資問題の黒幕であったうえ、妻の経営する会社への迂回融資も行っていたこと。さらに自身が、もじホテル問題の黒幕が自分だとしたら「(土下座なんて)何度でもしてやる!」と宣言してしまっていたため、土下座せざるを得ない状況に追い込まれる。9月29日放送の『華丸大吉&千鳥のテッパンいただきます!』(フジテレビ系)で明かされていた香川照之自身が「どうしてもしたくなかった」という土下座は、反発心からよだれが出るほど歯を食いしばり、ひざをつくまでにもたっぷり数分もかけて行われた。
だが、この「土下座」が面白すぎたことに加え、時代の変化もあり、続編での「土下座」は、ずいぶん印象が変わっている。
第4話では、伊佐山(市川猿之介)が大和田を裏切ったうえで、大和田をバカにする意味で「土下座」を7連発し、「土下座野郎」と罵倒。その後、大和田と半沢が共闘したことで、倍返しをくらうも、「誠に、あい~すい~ませんでした~」と、ギリギリ土下座を回避している。
また、第6話での曾根崎(佃典彦)の「後ずさりの土下座」は、小物感溢れる。笑いを誘うものだった。
さらに、第9話ラストでは、箕部幹事長(柄本明)の不正にたどり着いた半沢だったが、保管されていた証拠書類を大和田に持ち出され、箕部に返却されてしまっていたことで、逆に土下座を要求されてしまう。そこで、大和田が拒む半沢の手を床につかせ、馬乗りになって背中を押すという珍妙な「親子亀土下座」が登場。しかし、半沢は立ち上がり、土下座を断固拒否していた。
さらに最終回では、ラスボス・箕部が土下座を要求される展開になるが、志村けんとのコントのような“高速土下座”を披露し、逃げ去っている。正直、そこに謝意があるかは甚だ疑わしい。というか、おそらくないだろう。