『半沢直樹』『わたナギ』『MIU404』で今期圧勝 観るべきテーマを追求するTBSドラマのすごみ
最後に日曜劇場枠(日曜夜9時)の『半沢直樹』は、2013年に大ヒットとなったメガバンクを舞台にした池井戸潤原作ドラマの続編。大企業や銀行の旧態依然とした組織の腐敗を古い日本の象徴として描いた本作は、むしろ政治のゴタゴタが続いている2020年に観る方がしっくり来る。前作も今作も「昭和かよ」と揶揄されているが、昭和で時間が止まっている現在の日本の惨状を的確に描いているからこそ、大ヒットしたのだろう。
演出面では、主人公の半沢直樹(堺雅人)のライバル・大和田暁を演じる香川照之を筆頭とする歌舞伎俳優を多数起用することでケレン味たっぷりの演技を面白おかしく見せる方向に特化しており、“半沢歌舞伎”と言われるほど。顔のアップを多用する福澤克雄の演出は元々ケレン味たっぷりだったが、より様式化が進んでいる。
同時に起きているのが、かつての悪役が主人公と共闘関係になるという展開。前作で憎々しく描かれた宿敵・大和田が香川のアドリブを多用した芝居によって、妙に愛嬌のあるおじさんになってしまったことは驚きだった。作品自体もSNSでツッコミながら楽しむ作品へと変質しており、作り手もSNSの反応を刺激するようにおもしろい小ネタを投下するという視聴者との共犯関係が生まれている。
おそらく今後は、大和田を主人公にしたスピンオフ作品を狙っているのだろうが、前作の蓄積を踏まえながら、変えるところは大胆に変えるという思い切りの良さもTBSドラマの特徴だろう。今はどのテレビ局もSNSの反応を無視してドラマを作ることができなくなっているが、ただファンの欲望におもねるのではなく、一歩先を行こうとしていた。
逆に『MIU404』の場合は、SNS消費の欲望を刺激すると同時に、批判も展開しており、その二重の振る舞いに作り手の意地を感じた。ドラマの作り手には、ただ最適化するのではなく、作家として抗う姿も見せてほしい。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
日曜劇場『半沢直樹』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS
『MIU404』
Paraviにて全話配信中
12月25日(金)Blu-ray&DVD-BOX発売
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/
『私の家政夫ナギサさん』
Paraviにて全話配信中
2021年1月13日(水)Blu-ray&DVD-BOX発売
出演:多部未華子、瀬戸康史、眞栄田郷敦、高橋メアリージュン、宮尾俊太郎、平山祐介、水澤紳吾、岡部大(ハナコ)、若月佑美、飯尾和樹(ずん)、夏子、富田靖子、草刈民代、趣里、大森南朋
原作:『家政夫のナギサさん』(四ツ原フリコ著/ソルマーレ編集部)
脚本:徳尾浩司
演出:坪井敏雄、山本剛義
プロデューサー:岩崎愛奈(TBSスパークル)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS