『事故物件 恐い間取り』の背後にある、不気味な実話の数々 恐怖は私たちのすぐそばに

『事故物件』の背後にある“実話”の恐怖 

本当の話を聞くと、そこにあるのはリアルな恐怖

 ただ、なんといっても霊は見える人と見えない人、感じる人と感じられない人がいて、その存在自体にリアリズムを求めるのは難しいかもしれない。しかし、心霊現象(またの名を他に説明のつかない現象)が起きたという「事実」は、確かだ。リアルだ。

 そんな、確かに「事実」として起きた松原タニシの事故物件エピソードの数々が、本作のストーリーでは紡がれていく。松原タニシと、本作では中井の立ち位置である後輩芸人は実際に車に轢き逃げされているし、劇中に登場するトラウマ級の留守電も実際に起きたことだ。詳しくは言えないがエンドロールに登場する写真も『死霊館』的な後味の悪さを感じさせる。あくまでタニシは意図的に事故物件に住むことで、こうした出来事を引き寄せたと言えるが、私たちが知らずにそうした事故物件に住んでしまう可能性は決して0ではないのだ。

 ちなみに、詳しくはネタバレになるので言及を控えるが、例えば一軒目で起きた現象は、その全てが決してあそこで起きたわけではない。ほかの場所でのエピソードと融合させることでその恐怖をさらに輪にかけたものにしているのだ。

 そうなってくると、「一体どこからどこまでが本当なのか」というのが気になってくる。調べていくと特に、ある家に関する話が興味深かった。

 それは恐らく映画でも4軒目として登場した物件のこと。しかし、実際の話では、松原タニシはそこにはあまり滞在できなかった。その物件は寝ても疲れが取れず身体が休まらないので、なかなかその物件に帰ろうとしなかった。そこに入った瞬間、足から力が抜けて倒れて気を失ったのだそうだ。なんでもその物件はアパートの2階の部屋で、向かいの家に防犯センサーがあるのだが、深夜2時から明け方にかけてそれがずっと反応していたのだそうだ。彼が住めないと言って出て行ったそんな家に、映画版ではヤマメが住むことを決心する。もちろん、そこには彼の想像を絶する恐怖が待ち構えていたのだが……。

 こんなふうに、創作と実話の境目を探していくのは、本作のさらなる楽しみ方だと思う。しかし、あまりおすすめできるかは分からない。私自身、調べるうちに知ってしまった様々なエピソードが、頭からこびりついて離れない。夜が怖くて眠れなくなるのだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter

■公開情報
『事故物件 恐い間取り』
全国公開中
出演:亀梨和也、奈緒、瀬戸康史、江口のりこ、木下ほうか、MEGUMI、真魚、瀧川英次、加藤諒、坂口涼太郎、中田クルミ、団長安田、クロちゃん、バービー、宇野祥平、高田純次、小手伸也、有野晋哉、濱口優
原作:松原タニシ『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房刊)
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田
音楽:fox capture plan
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹撮影所
(c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
公式サイト:movies.shochiku.co.jp/jikobukken-movie
公式Twitter:@jikobukken2020

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる