『事故物件 恐い間取り』の背後にある、不気味な実話の数々 恐怖は私たちのすぐそばに

『事故物件』の背後にある“実話”の恐怖 

 この話をトークイベントで披露した松原タニシに、北野誠が「お前、そこ住んでみろ」と言ったことが、「事故物件住みます芸人」の始まりだった。これは少しアレンジされて映画の中にも似たような話として登場する。中井が番組プロデューサーの松尾に話したストーリーだ。松尾はモデルとなった北野のように、「そこに住んでみろ」とヤマメに言う。しかし、すでにそこに住人がいるということで借りることができず、後日殺人のあった物件に住み始める。この流れは実話も同じなのだが、実は借りることができなかった理由が少し違う。

 というのも、松原タニシはそのマンションに住めなかった。入居お断りだったという。しかし、実際に行ってみたのだ。すると、入り口から赤と白と黄色のテープが各部屋に繋がるようにして貼られている。そして各部屋の玄関のドアには一般の小さな覗き窓ではなく、なんと外側から開けて中を見るような仕様になっていた。さらには、一階の全ての窓が鉄格子で覆われている。どうやらそこは以前、精神病院だったのではないかという話だ。

 その後、彼が住み始めた殺人事件の起きた事故物件は、映画でも同じ一軒目として最初から恐怖全開の調子で色々な事象が起きる。特に幽霊がまだ半ば生きている人間かのように映した中田秀夫監督の捉え方も興味深い。

事故物件と中田秀夫監督の関係

 中田秀夫といえばJホラーを代表する監督としてこれまで多くの作品を手がけてきた。その作品の特徴は『女優霊』や『リング』が代表するように人間の業による悲劇的な恐怖だ。そして『仄暗い水の底から』『クロユリ団地』のように、マンション・団地という空間での演出経験も豊富である。しかも何を隠そう、彼は2015年に放送された『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)で「事故物件」というタイトルの作品をすでに手がけているのだ。

 その物語も、娘と二人きりでとあるマンションの一室に引っ越してきた元看護婦が体験した恐怖を、彼女目線で語るものだった。深夜0:12に鳴る無言電話、そして背後に現れ娘の部屋へと向かう髪の長い白い服の女。そこには中田秀夫の得意な、少し悲しくて切ないエッセンスがあり、それがストーリーに深みを与えつつも、怖い部分はしっかり怖い。

 中田監督は、幽霊の顔や全体像を写すことに抵抗がないように思える。むしろ、時に大胆で、エクストリームな形で登場させることもある。本作『事故物件 恐い間取り』でもそんな場面はもちろん登場する。一方、幽霊をはっきりと映さない場面での演出も興味深い。本作には、梓がヤマメのマンションの自転車置き場で何か霊的なものを見かけるシーンがある。その時、それは少しぼんわりしていて、しかしはっきりとそこにある、煤のような黒い集合体として描かれていたのだ。実は以前、“見える”という知人がどういう風に見えるか教えてくれた時、まさにそんな黒いモヤの塊に見えると話していた。

 そして、これは単なる私の憶測なのだが、タクシーの運転手さんがよくする、後ろに乗せたお客さんが実はこの世の人ではなかったという類のホラー実体験話。これはつまり、霊がまるで生きている人のように見えたからではないだろうか。そうなると、黒いモヤに映す演出も、大胆に顔を見せることで普通にそこにいる生きた人間のように映す演出(特に一軒目の霊2体が凄かった)のそのどちらもが、ある意味リアリティのある幽霊の視覚的捉え方だと思えるし、やはり中田秀夫は数を撮っているだけその恐怖のレパートリーの多さに驚かされる。

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