福本莉子、長澤まさみや浜辺美波に続くか? 『ふりふら』で見せた“東宝シンデレラ”の新たな可能性
その最たるものが、本作において重要となる“視線”の動きだ。原作と同じように、由奈はあくまでも読者ないしは鑑賞者に寄り添ったポジションでなければならない。だからこそ、少々過剰に映りかねない動きであっても、その動揺や真っ直ぐすぎる恋心を表現する必要性がある。少なくとも、すでに安定した浜辺の演技と比較すると明白なほどのぎこちなさが残る福本の演技は、かえって物語のリアリティを高め、恋愛への憧れを持ち続けたまま成長していく由奈としての説得力を生み出している。もしかするとこれがキャリアの浅さから出るナチュラルなものではなく、しっかりと作りあげられたアクトなのではないかと思える瞬間は数え切れないほどあった。いずれにしても彼女は、原作読者として期待していた市原由奈像を完璧にこなしていたといえよう。
改めて説明するのもあれだが、福本は第8回「東宝シンデレラ」オーディションのグランプリ受賞者だ。不定期で開催されてきたこのオーディションでは、これまでも沢口靖子や長澤まさみといったそれなりの地位を築いている女優たちを輩出しており、2011年に行われた第7回では今回の共演者である浜辺が「ニュージェネレーション賞」なる特設の賞を受賞。また上白石姉妹や山崎紘菜が発見された最大の当たり年でもあり、必然的に彼女たちがブレイクの波に乗りはじめた2016年に開催された第8回のグランプリに輝いた福本には、これまで以上の大きな期待がかけられているのは言うまでもないだろう。
例えば長澤はグランプリ直後に金子修介監督の『クロスファイア』でデビューし、上白石萌音は舞台、浜辺はCMからキャリアをスタートさせるなど、受賞者に決まったデビューの場が用意されているわけではなく、それぞれの形でスタートを切るのがこのオーディションの特徴のひとつでもある。福本の場合は、グランプリと同時に集英社賞に輝いており、多くの若手女優を輩出してきた雑誌『Seventeen』のモデルになりつつ、また同じタイミングでNHKの『物理講座』で初レギュラーを獲得するという、ちょっと珍しいかたちでキャリアをスタートさせた。
しかしその後、2018年に突然ドラマ『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)へのゲスト出演、映画『のみとり侍』、舞台『魔女の宅急便』、さらにはアニメ『ひそねとまそたん』の主題歌で歌手デビューと、一気にひと通りの活動を網羅するのである。
それは、まだ未知数の彼女がどのフィールドで一番輝くのかを試すねらいがあったのかもしれない。けれどもその後の活動を見ていく限りは、やはり映像演技で女優としてキャリアを積んでいくのが最も向いているであろう。最近でも、ドラマから映画へと展開する『映像研には手を出すな!』(MBS/TBS)で生徒会の一員として存在感を示し、WOWOWのドラマ『大江戸グレートジャーニー 〜ザ・お伊勢参り〜』にも出演。とりわけ映像演技で初めて主演級を務めた今回の『ふりふら』で彼女が証明したのは、その演技は大きなスクリーンでこそ堪能する価値があるということだ。2021年には主演作『しあわせのマスカット』も控えているようで、これから彼女は映画女優として、まだまだ伸びていくにちがいない。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『思い、思われ、ふり、ふられ』
全国公開中
出演:浜辺美波、北村匠海、福本莉子、赤楚衛二
原作:咲坂伊緒『思い、思われ、ふり、ふられ』(集英社『別冊マーガレット』連載)
監督:三木孝浩
脚本:米内山陽子、三木孝浩
配給:東宝
(c)2020映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 (c)咲坂伊緒/集英社
公式サイト:https://furifura-movie.jp/