演劇畑出身・玉田真也作品の魅力は“多層性”にあり? 深田晃司監督作品と共通する“距離感”

良作連発の演劇畑出身・玉田真也とは?

 玉田真也が監督・脚本を務める映画『僕の好きな女の子』が現在公開中だ。

 お笑い芸人の又吉直樹が書いたエッセイを原作とする本作は、頻繁に会って他愛のない話をするが恋愛関係ではない男女を描いた映画だ。

 脚本家の加藤(渡辺大和)は本心がわからない美帆(奈緒)に思いを寄せながらも、自分の気持ちを伝えることでこの心地よい関係が壊れてしまうのなら、このまま黙っていようと思っていた……。

 脚本協力として参加している今泉力哉が監督した『愛がなんだ』を男性視点から描いたような作品だと話題になっているが、受ける印象はだいぶ違う。『愛がなんだ』が、ヒロインのテルコ(岸井ゆきの)の心情がモノローグで語られるため、観客が感情移入して「これは私の物語だ」と思えるのに対し、『僕の好きな女の子』は、二人のやりとりを突き放した形で見せていく。

『僕の好きな女の子』(c)2019吉本興業

 そのため、加藤と美帆の関係性はよくわかるのだが、二人の本音の部分はわからないためムズムズするという仕掛けになっている。美帆の気持ちがわからないのは物語として当然だが、加藤の気持ちまでわからないとなると観ていて不安で「本当はどう思ってるんだ?」とモヤモヤするのだが、そのモヤモヤがピークに達したところで物語が切り替わり、クライマックスへと向かう構成は実に見事である。

 面白いのは、二人の背後に、現代社会の輪郭がうっすらと浮かび上がって見えること。この批評的な突き放した距離感こそ、玉田真也なのだと映画を観て思った。

『僕の好きな女の子』(c)2019吉本興業

 玉田は2011年に平田オリザが主宰する劇団「青年団」の演出部に入団。2014年からは「青年団リンク 玉田企画」で演劇作品を上演している。近年では文化人としても大きく注目されている平田オリザは、日本の演劇界を代表する劇作家の一人で、平田が確立した「現代口語演劇」という作劇手法は、岡田利規や三浦直之といった後に続く劇作家に大きな影響を与えている。

 また、青年団の演出部には、劇団ハイバイの岩井秀人や映画『よこがお』やドラマ『本気のしるし』(メ~テレ)で知られる深田晃司も所属しているのだが、『僕の好きな女の子』を観て思い出したのは、深田晃司が監督したいくつかの作品だ。

 二人の映画は、役者や物語に対する距離感がとてもよく似ているのだが、内面には踏み込まず、ひたすら表面を観察する距離感こそ、現代口語演劇の手法を映画やドラマに移植した際に現れた効果だろう。

 以前、筆者がインタビューした際に深田監督は、「みんな簡単に本音を言わない」のが青年団の作劇と既存のドラマの違いで、「日常生活において人は簡単に本音を言わないし、本音だと思って話している本人ですら、それが本心かどうかわかるはずがないという距離感でオリザさんは作っているのだと思います」(引用:ドラマ『本気のしるし』特集1 イベントルポ&深田晃司監督インタビュー(成馬零一) - 個人 - Yahoo!ニュース)と語っていたが、この距離感は『僕の好きな女の子』にも当てはまるのではないかと思う。

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