『アンナチュラル』ミコトの言葉を思い出さずにいられない 『MIU404』重苦しさが詰まった終盤戦

『MIU404』重苦しさが詰まった終盤戦へ

 中堂もまた、蒲郡と同じ、不条理な事件で恋人が殺された人物だ。『アンナチュラル』最終話において、中堂は、退職届を提出した後で、恋人が巻き込まれた連続殺人事件に関わっていると思われる人物に、毒を飲ませて殺そうとする。その時、ミコトによって放たれたのが、冒頭に記述した台詞である。中堂はその言葉と、六郎(窪田正孝)の助けによって罪を犯さずに済んだ。そして『アンナチュラル』と地続きになっている『MIU404』の世界においても、彼は相変わらずのパワーで、一度は辞めようとした法医学の世界を生きている。

 第8話には2つの取捨選択とその後悔が描かれている。1つは4月に伊吹が第4機捜隊に入ったばかりで忙しく蒲郡に会いに行くことができなかったこと。もう1つは、定年を迎えた蒲郡が「俺にだって刑事じゃない余生を過ごす権利はある」と、後々妻を轢き殺すという凶行に及ぶことになる犯人からの連絡をおざなりにしたということだ。どちらも仕方のないことである。そうせざるを得なかった。

 それでも彼らは最悪の事態が起こった時、思わずにはいられなかっただろう。「もしあの時、こうしていれば」と。蒲郡は冷徹に犯人を「処刑」したわけであるが、「処刑人にも良心の呵責はある」と言っていたように、彼を人でない「獣」と思わなければ踏み切れない感情はあった。そしてそこには、なにより自分に対する許せなさがあり、だからこそ彼は彼自身を「早く死刑にしろ」と言うこと、何より殺人を犯すことで今までしてきた刑事人生を無にすることで、彼自身を断罪したのではないか。

 現代社会が抱える重苦しさをそのまま流し込むかのように、どうにも苦しい展開になってきた『MIU404』。社会の中で見ないふりをされ続けて生きてきた人々、そして道を間違えてしまった彼らを正しい道に戻そうと、必死でその手を掴もうとする優しい人々を描いたこのドラマが、一体どんな終盤を迎えるのか。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

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