『おっさんずラブ』が提示した恋の先にあるもの 春田×牧の完璧なエンディングの先を描いた意味

『劇場版おっさんずラブ』が現代人に響く理由

 そもそも『おっさんずラブ』は、上司と部下の関係であり、さらには妻帯者でありながら、恋に落ちずにはいられなかった黒澤武蔵(吉田鋼太郎)の、切実で真摯な葛藤を描いたものだった。

 武蔵は強引すぎる記憶喪失になってまで春田にもう一度恋をするし、武川の一途な好意はどこまで行っても武蔵が春田の記憶を取り戻すトリガーにしかならない。実際単発ドラマの頃から『おっさんずラブ~in the sky~』(テレビ朝日系)に至るまで、ありとあらゆるシチュエーションで春田創一に恋し続けているのだから、黒澤武蔵は永遠に繰り返す定めを担わされた人物だと言える。

 おっさんたちはそうそう簡単に変われない。変われないおっさんたちが、猛然と火の中を走りながら、ものすごく真摯で純粋な言葉で愛を語り、私たちにとって一番大切なことを教えてくれるのがどうにもたまらないのである。

 花火や夏祭りが当たり前の夏の風物詩ではなくなってしまったコロナ禍において、余計に彼らの与えてくれたヒントが心に沁みる。

 「自分の気持ちに素直になること」の大切さ。そして「大切な人に明日も会えるなんて限らない。自分の気持ちは、ちゃんと伝えないとだめ」だと言うことを。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』
テレビ朝日系にて、8月2日(日)21:00~放送
出演:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、沢村一樹、志尊淳、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎
監督:瑠東東一郎
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
主題歌:スキマスイッチ「Revival」(AUGUSTA RECORDS/UNIVERSAL MUSIC LLC)
(c)「劇場版 おっさんずラブ」製作委員会

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