『ナイブズ・アウト』は新しい時代の名探偵シリーズに? クラシカルなスタイルを現在のものに更新

新時代の名探偵シリーズ『ナイブズ・アウト』

 アガサ・クリスティの映画化作品や、その様式を受け継ぐ映像作品では、豪華な俳優たちの共演が求められる。なぜなら、犯人となる重要な役には高い演技力や、観客の期待にも応えるスター性も必要とされるため、容疑者役の多くを実力と風格がある俳優で固めなければ、キャスティング自体が物語のネタバレとなってしまうからだ。本作でも、そのスタイルは踏襲され、豪華キャストが集結している。また、その結果起こる名優たちの演技合戦が、この種の映画の大きな魅力ともなっている。

 名優クリストファー・プラマー(『サウンド・オブ・ミュージック』)が演じるのが、今回の事件の犠牲者であるハーラン・スロンビー。彼は大豪邸に住んでいる富豪で、アガサ・クリスティのような世界的なミステリー作家である。彼は、85歳の誕生日の夜に謎の死を遂げ、その不審な状況が事件の捜査へと繋がっていく。85歳といえば、アガサ・クリスティが亡くなった歳でもある。

 容疑者として、事件現場でもある屋敷に集められたのは、パーティーに出席していた、一癖も二癖もありそうな人物たち。被害者の家族や専任の看護師、家政婦らである。刑事がひとりひとり尋問していく、その後ろで優雅に椅子に腰掛けて話を聞いているのが、名探偵ブノワ・ブランである。

 ブランは、なぜここにいるのか。じつは、彼は自分自身にすら知らされていない匿名の何者かによって急遽捜査を依頼され、現場に乗り込んでいるのだという。その状況が、すでに不可解。事件の裏に潜んだ闇の深さを物語っているといえよう。

 容疑者として被害者の一族としてキャスティングされているのは、クリス・エヴァンス(『アベンジャーズ』シリーズ)、ジェイミー・リー・カーティス(『ハロウィン』)、マイケル・シャノン(『シェイプ・オブ・ウォーター』)、ドン・ジョンソン(ドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』)、トニ・コレット(『ヘレディタリー/継承』)、ジェイデン・マーテル(『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』)らだ。

 そして、同時に容疑者となっているのが、アナ・デ・アルマス(『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でダニエル・クレイグと共演予定)が演じる、被害者に最も近い存在となっていた、南米出身の看護師マルタをはじめとする、屋敷で働いている者たちである。

 他にも、『スター・ウォーズ』シリーズでヨーダの動きや声を担当していたフランク・オズ演じる被害者の弁護士や、『ゲット・アウト』などのキース・スタンフィールド演じる警部補など、一見容疑者とは思えない人物たちも、油断できないキャストで占められている。

 面白いのは、これら各キャラクターが、きわめて現代的な問題を内包しているという点である。スロンビー家の一族は全員が、被害者の名声や富に頼って生きてきた人物たちで、被害者が亡くなっても、莫大な遺産を目当てにまだまだ寄生を続ける気でいる。

 長い間アメコミヒーロー映画で活躍し、アベンジャーズをまとめ上げるキャプテン・アメリカ役として、人格者のイメージが強いクリス・エヴァンス。彼が演じる、被害者長女の息子は、奔放な性格から、そんな一族のなかですら鼻つまみ者として扱われているのが面白い。

 それと対照的に描かれているのは、アナ・デ・アルマス演じる、貧しい家に住む移民マルタである。彼女のような立場の市民がアメリカで稼ぐためには、身を粉にして働く必要があるし、様々な差別に遭うことも考えられる。実際に、被害者以外のスロンビー家の面々は、マルタのことを表面的には気遣う様子を見せ、「私たち家族は暖かく受け入れてやっている」という態度で接しながら、彼女の出身国すら誰も知らず、マスコットのような扱いを続けている。そんな一族の欺瞞は、マルタに起きるある出来事によって表面化していくことになる。

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