『くちびるに歌を』は原石だらけの鉱脈だった 恒松祐里、佐野勇斗ら卒業生たちのその後
いま少しずつ、映画の上映やテレビドラマの放送などが再開されてきているところだが、これまでの期間、数多くのリモートで制作された作品が世に出てきた。そのなかで筆者がもっとも心を震わせられたのが、“中五島中学校合唱部OB”による「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」のリモート合唱。これは、映画『くちびるに歌を』(2015年)で中学生を演じていた、恒松祐里ら元生徒役の者たちによるもの。それぞれがステイホーム期間中に自宅で練習を重ね、およそ5年ぶりに“中五島中学校合唱部”がその成長した姿を見せてくれたのだ。
なぜ、心を震わせられたのか? それはもちろん、本作の大ファンであるというのがまず一つ。新垣結衣演じる不器用な教師と生徒たちの心の交流、若者たちの成長や友情、家族愛をも描きながら、やがて到達するクライマックスでの合唱シーンは何度観ても涙が止められない。
かつて、そんな生徒を演じていたのは、恒松祐里、下田翔大、葵わかな、柴田杏花、山口まゆ、佐野勇斗、室井響、朝倉ふゆな、植田まひる、高橋奈々、狩野見恭兵、三浦翔哉といった、活躍の目覚ましい存在たち。いまでもまだまだ“若手”の部類に入る彼らだが、映画の公開当時は誰もが十代であった。『アシガール』(2017年/NHK総合)などでの好演も記憶に新しい下田翔大は、美声を活かしたソプラノ担当であったが、変声期を経て、このリモート合唱ではテノールを担当。ほかの生徒たちに関しても、卒業後のその成長、活躍ぶりを現在進行系で見守っているものとあって、勝手ながら親のような、先輩のような心持ちになってしまっているのだ。
思い返してみても、『くちびるに歌を』は原石だらけの鉱脈であった。子役から活動していた恒松祐里は、本作への出演を機に活動の幅がドッと広がった印象だ。『散歩する侵略者』(2017年)で世界中の映画ファンを驚愕させ、『凪待ち』(2019年)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)、『殺さない彼と死なない彼女』(2019年)と、昨年は話題作の主要なポジションで多様な表情を見せた。今年公開の『シグナル100』では、健気な優等生が極限状態に追い込まれ、狂気に飲まれていく様を体現。その転換シーンは、さながら“恒松祐里劇場”とでも呼べるものだった。