森下佳子、坂元裕二、岡田惠和はコロナ禍をどう描いた? 名脚本家たちが描く短編ドラマの心地よさ

名脚本家たちが描いた短編ドラマの心地よさ

岡田惠和『2020年 五月の恋』

 岡田惠和はYouTube WOWOW特別チャンネルで、5月28日から4夜連続で大泉洋と吉田羊による15分弱のドラマ『2020年五月の恋』を発表。こちらは、岡田惠和らしい、日常の会話劇のリモート版。元夫婦がコロナ禍をきっかけに、電話をかけて久しぶりに会話する。

 元夫婦の再会(電話で)以外、特別な事件は起こらないし、ファンタジーのような変わった設定もなく、2020年に生きているごく普通の生活者・大泉と吉田がそれぞれの部屋から会話するだけの15分×4作=1時間を飽きさせることなく見せきった。二分割した画面に大泉と吉田がひとりずつしゃべっているのは、舞台で、上手と下手に分かれてしゃべっているような感覚に陥る。コロナ禍におかれたお互いの状況と、別れたふたりの微妙な感情。遠慮、ためらい、見栄、未練、腐れ縁的な理解、等々、感情が波のように絶え間なく続いていく。

 コロナ禍で疲弊した元妻に対して、元夫が見せる思いやりは、テレワークで孤独な気持ちになっている人の心に火を灯す。面白いのはビデオ通話でなく電話で会話していること。その疑問はやがて……。さらにオチはまだあって……という毎回、続きが気になる連作は、明日に楽しみをくれた。

 森下佳子、坂元裕二、岡田惠和、彼らがおそらく短期間で書いた短編であるからこそ、作家の個性とスキルが如実に出たものなのではないかと思うが、三者三様、ふって沸いたコロナ禍にこういうふうに向き合うんだなあと興味深い。リアルとファンタジーをうまく混ぜた森下、こんなときだから人間とは何か哲学的に向き合う坂元、どんなときでも人と人との会話が世界を救うというシンプルに力強い岡田。それぞれ違う味わいがあったが、3人に共通しているのは、見終わった余韻が極めて心地よかったことである。コロナでドラマが休止してしまって落胆する日々だが、思いがけない作家の良質な短編ドラマを観ることができたことはオトクであった。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■作品情報
『今だから、新作ドラマ作ってみました』
NHK総合

●第1夜 「心はホノルル、彼にはピーナツバター」
作:矢島弘一
出演:満島真之介、前田亜季

●第2夜 「さよならMyWay!!!」
作:池谷雅夫
出演:日向文世、竹下景子

●第3夜 「転・コウ・生」
作:森下佳子
音楽:宮崎誠
出演:柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生

『リモートドラマ Living』
NHK総合にて放送

●第1夜
第1話 出演:広瀬アリス、広瀬すず
第2話 出演:永山瑛太、永山絢斗

●第2夜
第3話 出演:中尾明慶、仲里依紗
第4話 出演:青木崇高、優香(声)

●第1夜、第2夜(全話出演)
出演:阿部サダヲ、壇蜜(声)

『2020年 五月の恋』
WOWOWオフィシャルYouTubeチャンネル&WOWOWメンバーズオンデマンドにて、無料配信中
出演:吉田羊、大泉洋
脚本:岡田惠和
監督:松永大司
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/gogatsunokoi/
WOWOWメンバーズオンデマンド:https://wmod-promo.wowow.co.jp/series?id=45662 WOWOWオフィシャルYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/WOWOWofficial

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