『アンナチュラル』の成功が切り拓いた10年越しの企画 野木亜紀子が語る、『MIU404』制作の背景

野木亜紀子が語る『MIU404』制作の背景

難しいのは、エンタメのわかりやすさと伝えたい本質の割合

――『アンナチュラル』の舞台も「UDIラボ」という架空の研究機関でしたが、今回も働き方改革の一環で生まれた架空の部隊ということで、個人的にはこの“現実の組織ではない“前提が、野木さんの描く物語への入りやすさを生んでいると思っているのですが。

野木:自分自身、ドラマを観ていて、「いや、実際そうじゃないよね」と気になってしまうことが多いんです。今回も実際にある2機捜とか3機捜が舞台でいいんじゃないかという話もあったのですが、やっぱりこの作品は架空にしたいとお願いしました。機捜自体はリアルだけど、「4機捜」がフィクションであれば、いろんなイレギュラーが受け入れやすくて、エンタメにできるので。書き手としての生理というか。

――あまりにリアルだと、特に事件モノは世の中の動きとリンクして変な話題にもなりかねませんよね。

野木:そうなんですよ、本当そういうの困るなーと。でも、現実にあるものを取材したり、気になったニュースや事象をヒントに物語を作っているので、意図せず繋がってしまうこともあって。そういう意味でも、見せ方ひとつとっても難しいです。

――企画のアイデアは常にストックされているんですか?

野木:そうですね。ただ、世の中どんどん変化していくので、ストックはすぐに古くなる。『フェイクニュース』(NHK総合)をやったときは、最初の企画段階で想定していた話からまるっと作り直したこともありました。ドラマも企画が動きはじめて、1年から1年半はかかりますが、映画に比べると即時性があるので、ドラマならではの、時代に沿うものをやれたらいいなとは思っています。

――インタビューで「結局、自分が面白いと思うもの、見たいと思うものを書くしかない」とおっしゃっていたのをよく見かけましたが、その軸が合っているのか不安になることはありませんか?

野木:いろいろありますね……自分が「面白い」と思っているものが、受け入れられるかは別問題なので。ただ、今回もタッグを組むプロデューサーの新井さんが、いい意味で一般視聴者なんです。すぐに「難しい! 分からん!」と言ってくれるので、“新井さんが分からないことは、視聴者にも伝わらない”、そういうベンチマークになってくれています。だから、私の仕事はまず新井順子を面白がらせること。その表面上のわかりやすさを見せながらも、私自身が面白いと思えるものを潜ませていくようにしています。

――なるほど。『逃げるは恥だが役に立つ』を観たときに、まさにそれを感じていました。表面上は多くの人が心地よく観られるラブコメで、でもちょっと考えたい人にとっては設定やセリフ一つひとつを掘り下げていける面白さがある。その物語の奥深さが、支持の広さと比例するんだなって。

野木:そうなんです。ただ『逃げ恥』のときは、乖離した感覚もありました。後半に深掘り部分を表に出したら「みくり(新垣結衣)、かわいい」って言ってた人たちが、裏切られた気分になったようで……。

『逃げるは恥だが役に立つ』(c)TBS

――プロポーズ後の「愛情の搾取」のところですね。

野木:「みくりがかわいくなくなった」って言われていましたから。原作派や、深掘り楽しむ派の方々は「最初からそういう話だよね」となっていましたが、ただ楽しんで観ていた人たちには唐突だったようで。

――人は見たいものしか見ていないって、言いますしね。

野木:本当にそうですよね。でも、主婦の家事がどうとかって話を最初から前面に押し出していたら、あんなに観てもらえなかったとも思うので、どうしたら、あの乖離をさせずに伝えられたのかというのは、未だにわからないですね。

――未だに!

野木:未だにです(笑)。何を作っても、完璧なものなんて作れないので、毎回、何かしらの反省はあります。わかりやすい面白さと、伝えたい本質的なテーマと、そのラインはいつも悩むところです。実は、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)も『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)も、私の中でエンタメのカテゴリに入れていないんです。人を選ぶ作品もあってもいいと思うし、そういう形でしか伝えられないものもあると思うので。その時期、その枠、そのチームだからこそ作れるものをやっていきたいと思っています。

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