野木亜紀子の作品はなぜ今求められる? 『逃げ恥』『アンナチュラル』などから紐解くその真髄

過去作から紐解く、野木亜紀子作品の真髄

 新型コロナウイルスの影響で、4月ドラマの放送開始が次々と延期になっている。テレビをつければ心が重くなるような報道が続き、SNSをのぞけば飛び交う刃のような言葉でうっかり傷つくことも……。厳しい現実を生きる私たちに、エンタメがどれほど救いになっていたのかを痛感する毎日だ。

 金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)もスタートまで、今しばらく時間がかかりそうだ。本作は、星野源×綾野剛をダブル主演に迎え、脚本家・野木亜紀子が描く1話完結のオリジナルストーリー。制作発表されるやいなや、多くのファンから期待の声が上がった。魅力的なキャストに心が躍るのはもちろんだが、これほど注目が集まったのは脚本家・野木亜紀子の存在が大きい。なぜ今、彼女の作品が求められているのか。過去の名作を振り返りながら、野木亜紀子作品の真髄を探りたい。

“人”が演じる意味を創る脚本

 野木といえば、原作を尊重した実写化ドラマで多くのヒットを生み出してきた。『主に泣いてます』(フジテレビ系)、『空飛ぶ広報室』(TBS系)、『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系)、『重版出来!』(TBS系)……なかでも、彼女の知名度を高めたのは『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/以下、『逃げ恥』)だろう。

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 真面目で人当たりがよいにも関わらず就職がうまくいかず、派遣切りにあった主人公・みくり(新垣結衣)は、家事代行サービスの延長線上、つまり「就職としての結婚」を思いつく。雇用主(=夫)となる平匡(星野源)は、年齢=彼女いない歴の“プロの独身“。夫婦を装いながら、本物の愛が生まれていくさまを描く。そこに、高齢処女であるみくりの伯母・百合(石田ゆり子)、カンが鋭いゲイの沼田(古田新太)、結婚に夢を見ないハイスペックイケメンの風見(大谷亮平)など、実に個性豊かなキャラクターが登場した。多様性のある社会の理想郷を見るような心温まるエンディングで、多くの“ロス“を生んだ作品。

 「キャラクター全員に平等な愛を持ってくださいます。みんな愛せるキャラクターですし、応援したくなるようなキャラクター。すごく現実的で、綺麗すぎない人間らしいキャラクターだけど、そこには程よいフィクションもあって、現実の私たちも希望が持てる」とは、主演を務めた新垣結衣の野木の脚本に対するコメントだ(引用:インタビュー 新垣結衣さん 森山みくり役 Part.2|『逃げるは恥だが役に立つ』公式サイト)。漫画や小説で描かれたキャラクターに、愛情を持って“人間味“が与えられる。それが野木作品の大きな特徴ではないだろうか。

 野木は、かつてインタビューで「一番好きだったのは『(天才・たけしの)元気が出るテレビ!!』かもしれない。その後の『進め!電波少年』も、『進ぬ!(電波少年)』になっても見てました」「いわゆるバラエティーとはちょっと違う、半ドキュメンタリー感が当時新鮮だったのかな」と語っている(引用:『逃げ恥』脚本家が小学生時代に書いた『スシヤーです物語』|文春オンライン)。日本映画学校を卒業した後には、ドキュメンタリー制作に従事したという。

 つまり、野木亜紀子ドラマの根底には、社会を見つめる「ドキュメンタリー」がある。多くの人を見てきたことで培われた、「こういう人いるいる」という感覚。それが原作で語られていなかった行間の膨らみにつながる。先のインタビューでは、実際に『逃げ恥』の百合が会社で働くエピソードは原作にはなかった部分。女性の生き方を語る上で、そのバックボーンを見せる必要があると考えてのことだったという。

 原作の中にある哲学を貫きながら、現実を生きる人の“リアル“を織り交ぜる。どんなにファンタジックな展開であったとしても、押し付けられることなく、振り落とされることもないのは、そこにちゃんと「人間」が香るから。そこに実写化する意味が生まれ、現実と地続きな希望を持つことができるのだ。

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