『M 愛すべき人がいて』登場人物のモデルとなった人物は? 90年代の音楽シーンとともに解説

『M』登場人物のモデルとなった人物は?

 平成の歌姫・浜崎あゆみとエイベックス社長・松浦勝人(当時専務)との出会いと別れを描くドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日×ABEMA)。原作は小松成美の同名小説。綿密な取材をもとにしているが、そこにさらにフィクションの要素を加えてドラマ化している。

 エキセントリックな登場人物のセリフや演技などが話題を集めているが、ここでは舞台となった90年代の音楽シーンの様子や、登場人物のモデルとなった人物やアーティストを紐解いていきたい。

アユとマサの出会いの場「ヴェルファーレ」


 ファーストカットは2001年の渋谷の風景。この年はアーティスト・浜崎あゆみの最初の絶頂期と言っていいだろう。初のベストアルバム『A BEST』のリリース(劇中でも109ビルに広告が出ている)、4大ドームツアーの実施、日本レコード大賞初受賞、前年に続いて2年連続CD売上200億円を突破している。

 物語は浜崎が上京して芸能界デビューした1993年にさかのぼる。劇中ではアユ(安斉かれん)が中谷プロダクションに所属してドラマなどに出演する様子が描かれるが、浜崎が実際に所属していたのは松田聖子や酒井法子を輩出したサンミュージック。中谷社長(高橋克典)は原作小説には登場しない。サンミュージックの社長・相澤秀禎は芸能界では稀なほどの人格者として知られていた。エイベックスが町田から本社を南青山に移転したのもこの年。

 松浦がモデルのマックス・マサ(三浦翔平)とアユが出会ったディスコ「Velfine」のモデルは、六本木の巨大ディスコ「ヴェルファーレ」。エイベックスが1994年にオープンしたもので、地上3階、地下3階、総床面積1500坪を誇るアジア最大級のディスコだった。松浦もオープニングのテープカットに参加している。松浦の記憶によると、ネーミングはヴェルサーチとフェラーリの合体だったとか(ブログ 2006年12月15日)。ドラマではヴェルファーレの象徴だった大階段が再現された。

 当初はジュリアナ東京の流れを汲むユーロビートやパラパラが中心だったが、その後はテクノやトランスなどの流行発信地となった。エイベックスはオープン直後から毎週のように新人アーティストのライブイベントを行い、MAX、安室奈美恵、浜崎あゆみ、倖田來未、EXILEなどが出演していた。

 原作小説で松浦と浜崎がヴェルファーレで出会うのは浜崎が17歳のときだから1995年ということになる。その後、1996年の年末にサンミュージックとの契約が切れ、ニューヨークでボイストレーニングを受けるのが1997年。デビューは1998年4月である。

松浦勝人と小室哲哉


 「velfine」のステージでライブを行っていたダンス&ボーカルグループ、USGのモデルはエイベックス邦楽第1号グループだったTRF(当時はtrf)。演じているlolがカバーした「BOY MEETS GIRL」はドラマと連動したアルバム『avex revival trax』に収録されている。

 そのUSGをプロデュースした輝楽天明(新納慎也)のモデルとされているのが小室哲哉。所属していたユニットTM NETWORK(以下、TMN)の活動が終了した1994年からプロデュース活動に専念し、小室ブームとも呼ばれる社会現象を起こした。劇中で200万枚を売り上げた「スーパージャングル」は、213万枚を売り上げたH Jungle with tの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」のことだろう。

 松浦と小室の出会いは、エイベックスがまだ町田にあった1992年。「TMNでユーロビートのカバーCDがつくれないものか?」という松浦のアイデアに当初、小室は及び腰だったとされる。その後、小室がダンス番組『ダンス・ダンス・ダンス』(フジテレビ系)で見初めたSAM、全国各地のマハラジャで行っていた新人オーディションに現れたYU-KIを組み合わせたユニットtrfをエイベックスからデビューさせた。「TK RABE FACTORY(略してtrf)」の名付け親は松浦である。業界の前評判は「絶対に売れない」というものだったが、1993年から売れ始め、翌年には早くもミリオンセラーを達成。松浦は「初期のエイベックスで、trfが売れたときほど嬉しかったことはない」と振り返っている。ここからエイベックスの快進撃が始まった。

 その後、松浦と小室の関係は紆余曲折あるが、2009年に小室の5億円詐欺事件における公判に出席した松浦は「小室さんがいなければ今の自分も会社もなかった。ELT(Every Little Thing)やEXILE、浜崎あゆみ、倖田來未なども小室さんなしには生まれなかった。小室さんは僕の恩師です」と語った(産経ニュース、2009年3月12日)。ちなみに輝楽天明のルックスに悪意があるのではないかと問われた松浦は、「それはテレビ局や番組製作者が決めてる事なので僕にはなんの権利もありません」と返答している(松浦勝人Twitter、4月26日)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる