『M 愛すべき人がいて』登場人物のモデルとなった人物は? 90年代の音楽シーンとともに解説

『M』登場人物のモデルとなった人物は?

脱小室路線の第一歩、ELT

 輝楽に対抗心を燃やすマサがプロデュースする3人組ユニットOTF(「OVER THE FACT」というネーミングはこのドラマの姿勢の表れだろう)。モデルは96年デビューのEvery Little Thing(ELT)。マサがユニット結成を持ちかけた三ツ谷(Da-iCEの和田颯)のモデルは、ELTのリーダーでサウンドプロデューサーの五十嵐充だろう(2000年に脱退)。

 五十嵐は20歳のときに松浦が経営していた貸しレコード店「友&愛」の上大岡店のアルバイトに入り、その後店長になったが、店が立ち退きになったため、松浦に新しくできたスタジオの電話番を任されて食いつないでいた。ELT結成時は、五十嵐がバンドを組んでいた伊藤一朗を招くことを松浦が許可している(「デブでなければ」という条件付き)。最初の学祭ライブには松浦も足を運び、楽屋で一緒に泣いたという。その後、ELTはいくつものミリオンヒットを飛ばすビッグユニットへと駆け上がっていき、エイベックスの脱小室路線の端緒となった。

 なお、小松成美の原作小説ではELTの名前こそ出ないが、浜崎が「どのショップにも専務プロデュースの歌が繰り返し流れている」「ヒットメーカーとなったそのアーティストを羨ましいと思わない、と言ったら私は大嘘つきだ」と苛立ちを隠さない場面がある。

 マサの直属の部下・流川翔(白濱亜嵐)には特定のモデルはいない。ドラマでは彼がアユをスカウトしたことになっているが(正確にはアユがアピールした形)、原作小説ではヴェルファーレのフロアスタッフに声をかけられている。流川は貸しレコード店時代にマサと知り合って慕っているという設定だが、白濱亜嵐のボスであるEXILEのリーダー、HIROも松浦が貸しレコード店を経営しているときに知り合っている。

あの個性的な人物のモデルとは?

 大浜社長(高嶋政伸)のモデルはエイベックスで社長兼会長を務めた依田巽だろう。海外とのパイプを持つ依田は、まだレコードの輸入業者だった初期のエイベックスで顧問として松浦らを支援。trfがブレイクした1993年に代表取締役に就任し、その後、筆頭株主になる。ELTがデビューする1996年頃について、松浦は「依田さんは、クリエイティビィティよりも売上至上主義に変わっていった」「依田さんが会社を支配」していたと振り返っている。実際、松浦はしょっちゅう依田と口げんかを繰り返していたという。小室路線からの脱却と、依田体制への反発が、浜崎あゆみを生み出す原動力になったと考えていいだろう。その後、2004年に松浦と依田は決定的に対立して一度は松浦が辞表を提出するが、浜崎が松浦を擁護して依田が社長を辞任した。

 ニューヨークでアユをしごきまくるエキセントリックなボイストレーナー、天馬まゆみ(水野美紀)のモデルとされるのは、実際に浜崎あゆみをニューヨークで指導したボイストレーナーの原田真裕美。腹からではなく「魂(ソウル)から」声を出せと指導するが、実際に「魂カウンセラー」「魂アドバイザー」という肩書きを持つ。原作小説には「マユミ」という名前で登場するが、それを読んだ原田は「超意地悪い、ビッチーでハラスメントやり放題、酷いレッスンする人なんです〜。『ひどーい!』私、そんな喋り方しないし、そんな事しな~い!」と抗議の声をあげている(原田真裕美の魂ブログ/ Mayumi's Intuitive Blog、2019年8月20日)。ドラマを観たら、どんな感想を抱くのだろう?

 今後は相川七瀬をモデルにしたと思しき冴木真希(Yup'in)の登場も予定されている。ということは、作詞作曲した織田哲郎をモデルにした人物も登場するだろう。90年代音楽と当時の音楽業界が好きな人は目が離せないドラマである。なお、隻眼の秘書・姫野礼香(田中みな実)のモデルは見当たらなかったことを付け加えておく。

※参考:芦崎治『avex way 1988~2005』

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『M 愛すべき人がいて』
テレビ朝日系にて、毎週土曜 23:15~0:05放送
ABEMAにて、独占配信
出演:安斉かれん、三浦翔平、白濱亜嵐、田中みな実、久保田紗友、河北麻友子、田中道子、新納慎也、市毛良枝、高橋克典、高嶋政伸
原作:小松成美『M 愛すべき人がいて』(幻冬舎刊)
脚本:鈴木おさむ
企画:藤田晋(ABEMA)
ゼネラルプロデューサー: 横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)、谷口達彦(ABEMA)、山形亮介(角川大映スタジオ)、佐藤雅彦(角川大映スタジオ)
アソシエイトプロデューサー:川島彩乃(ABEMA)
演出:木下高男、麻生学
主題歌:浜崎あゆみ「M」(avex trax)
制作:テレビ朝日
制作協力:角川大映スタジオ
(c)テレビ朝日/ABEMA

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