伊藤沙莉の演技はなぜ心に刺さるのか 荒唐無稽な『いいね!光源氏くん』を成立させる“普通力”

伊藤沙莉の演技はなぜ心に刺さるのか

 今、20代の女優で1番上手いのは伊藤沙莉だ。

 と、断言したくなるほど彼女の演技は刺さる。ハズレがない。コメディからシリアスまで両方成立させる技術力と、すぐそこのコンビニで買い物をしているような親近感。場面ごとにクルクル変わる表情を見ているといつの間にか感情移入し、全力で応援してしまう。

 そんな伊藤が自身の持ち味全開で演じているのが、NHK総合・よるドラ枠でオンエア中の『いいね!光源氏くん』藤原沙織役だ。

 東京・月島あたりのマンションで1人暮らしをしているメーカー勤務のOL・沙織のもとに、ある晩突然、光源氏(千葉雄大)が現れる。あまりの出来事に混乱しながらも事態を受け入れ、光をさまざまな場所に連れ出したりSNSの使い方を教えたりしながら、現代のライフスタイルを教える沙織。ともに暮らすうち、光に惹かれていく沙織だったが、そこに光のライバル・頭中将(桐山漣)までタイムスリップ(?)してきてイケメンふたりに挟まれる羽目にーー。

 この少女漫画感満載の展開に絶妙なリアリティを与えているのが伊藤の演技だ。とんでもない状況をおそるおそる受け入れる沙織の心情の変化や、光に惹かれながらもいつか来る別れを予想し先の一歩を踏み出せない微妙な気持ち、美人で要領よく生きる妹・詩織(入山杏奈)へのコンプレックス。大きな“嘘”=平安時代の物語の登場人物が目の前に現れる……というぶっ飛んだシチュエーションを成立させるには沙織の芝居に嘘がないことが必須なのだが、彼女はきっちりその役目を果たしている。

 伊藤沙莉の女優としてのキャリアはなんと17年。わずか9歳にしてドラマ『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』(日本テレビ系)で、身体だけが少女に若返ってしまった女性研究員という難しい役どころを演じて話題になった。その後もさまざまな作品に出演する中で、伊藤が多くの視聴者に認識されたのはNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』米子役ではないだろうか。米穀店に生まれながら米が嫌いでパンに憧れ、父・善三(斉藤暁)と自宅内バトルを繰り広げる米子のキャラクターは、作品に絶妙な明るさをもたらしていたと思う。

 彼女の大きな魅力、それは「普通力」だ。

 どこにでもいる、友達にいそう、会ったことがある気がする。そんなキャラクターを伊藤は多彩な表現で魅せる。たとえば同じ「OL」という枠組みでも『獣になれない私たち』(日本テレビ系)では、すべてを先輩に押し付け、少しでも楽をしようとするちゃらんぽらんなOL・松任谷夢子役を、『これは経費で落ちません!』(NHK総合)では先輩をサポートしながら、自分の楽しみも大事にするイマドキOLの佐々木真夕役を、そして『いいね!光源氏くん』では周囲とうまく付き合いながら仕事に力を入れ過ぎず、迷いながら生きる沙織役を、それぞれまったく違う印象で演じ分けている。これはもう職人の域だ。

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