『素敵な選TAXI』は“脚本家”バカリズムに必要な作品だった ドラマの次元へ進んだユーモアと皮肉
“人生の分岐点”をテーマに、竹野内豊演じる“選TAXI”の運転手・枝分と過去をやり直したい乗客が繰り広げるユーモラスな会話、そしてタイムトラベルによって導きだされる人生の機微を描いた『素敵な選TAXI』(カンテレ・フジテレビ系)が、新型コロナウイルスの影響で新火曜ドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』が放送延期となったことを受け、現在再放送されている。
4月28日に放送された第3話で描かれたのは、不倫相手に失恋してしまった女性の物語。自身が秘書を務めるIT会社の社長・野々山(中村俊介)と不倫関係にある麻里奈(木村文乃)は、野々山に妻と別れるように迫り、妊娠したことを打ち明けるが冷たくあしらわれてしまう。そして偶然“選TAXI”に乗り込んだ彼女は時間を遡り、野々山に話を切り出すタイミングを変えようとするのだが、そこで予期せぬハプニングに見舞われてしまうのだ。
先日劇場版も公開された『架空OL日記』や、Huluで2期目の配信がスタートしたばかりの『住住』など、近年お笑い芸人の枠を飛び越えて脚本家としてめざましい活躍をつづけるバカリズム。本作は彼にとって最初の連ドラ脚本作であっただけに、ひとつひとつの“選択肢”で待ち受けている展開そのものにはさほど新鮮味がないというのが正直なところだ。それでもちょっとしたユーモアであったり、長めに展開してもダレることのない選TAXI内での会話などからは、バカリズムのお笑い芸人としての職人的なセンスが余すところなく発揮されていると見受けられる。
日常コメディ的なゆるさを土台に据えながら、時間を超越するというSFファンタジーの展開。そして人生の皮肉であったり哀愁ただよう部分をのぞかせるあたり、時折『笑ゥせぇるすまん』を想起してしまうのだが、本作の前にバカリズムが脚本を手がけた『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)の一編「来世不動産」にも通じる。もっとも同作は、まだコントの延長線上にあるニュアンスが強く、短編としての瞬発力が著しい作品だった。そこに1時間枠ないしは連続ドラマとして必要なドラマ性を与えているのは、本作のチーフ監督であり、この第3話の演出を務めた筧昌也と組んだことによって引き起こされた一種の化学反応ではないだろうか。