大泉洋はどんな役も自分色に染め上げる 『ノーサイド・ゲーム』ほか新境地を切り拓いた3作品

大泉洋の魅力が詰まった3作品

 現在、日本テレビの『ハケンの品格』の新シリーズの放送を前に、13年前の『ハケンの品格』を編集した『春子の物語 ハケンの品格2007特別編』が放送されていたり、TBSでは本人のナレーションを加えた『ノーサイド・ゲーム特別編』も放送される。

 そのどちらにも出演している大泉洋は、いつもその活躍をテレビで見ている気がしてしまうが、地上波の民放のドラマへの出演はこの『ノーサイド・ゲーム』以前はかなり少なかった。そんな大泉の、過去の作品を3本に絞って振り返ってみたい。

『ハケンの品格』(日本テレビ系)

『ハケンの品格』(c)日本テレビ

 このドラマに30代半ばで出演した大泉は、ヒロインの大前春子(篠原涼子)の働く会社の販売二課主任の東海林武を演じている。辞令の際にも部長に「死ぬ気で頑張ります!」というくらい会社への忠誠心の強い役だ。

 この東海林というキャラクターは決して優等生ではない。正社員風をふかして派遣社員をバカにしたり、おつかいを頼んだりもする。しかし、そんなマイナスな要素がたくさんあっても、次第に春子と出会うことで変わるべきところは変わっていき、いつしか人間的で魅力的に見えてくる。大泉洋の持ち味が生かされた結果だろう。

 派遣でやってきた春子に対しても、最初からぞんざいな態度で接し、反発しあっているのに、いつしか東海林は春子のことが気になってくる。ラブコメディでは、ケンカしながらも好きになっていくとうものはたくさんあるが、当時は、東海林と春子がくっつく展開になるの?と驚きながら後半の行く末を見守っていた。

 しかし、大人の「反発しながらも好き会っていく」という展開のドラマは、なかなか作られないし、演じられる年代も限られている(私がぱっと思いつくのはフジテレビで放送された『最後から二番目の恋』くらいのものである)。当時の派遣社員の現実を描く社会性のあるドラマながらも、アラサーの大泉洋と篠原涼子の微笑ましいやり取りが作品に焼き付けられているのは、今になっても、貴重に感じられる。

『連続ドラマW 地の塩』(WOWOW)

『連続ドラマW 地の塩』DVD BOX

 2014年の『連続ドラマW 地の塩』は、4話完結のヒューマンミステリー。脚本を井上由美子が手掛けたオリジナル作品だ。

 大泉は考古学者の神村賢作という人物を演じる。長野県の塩名町で発掘作業をすすめるうちに、前期旧石器時代の遺物を発見したことで、神村は「神の手」を持つ人物と称されるようになる。そんな神村の功績は、松雪泰子演じる教科書編集者の佐久間里奈によって、教科書にも掲載されることとなる。一方、里奈は「神村の発見は捏造だ」という説を聞いてしまうのだった。

 大泉洋が演じる神村は、表面的には善人で町の人たちにも愛されているが、その裏では、考古学者としてある真実を捏造している。こうした善悪の狭間にいる役を大泉が演じるのは、他では見られない設定ではないだろうか。

 神村は口もうまく、学術調査の支援会の場で大勢の人を前にスピーチするときにも、スマートに笑いを取り、美辞麗句を並べる。しかし、どこかそれが虚像のように見える描写が巧い。演技じみた大げさな行動は、ドラマの上ではうさん臭さにも見えるが、至近距離でやられると、大胆で魅力的な人に見えてころっと騙されてしまうのだろうと思えてしまう。

 また「神の手」という、いささか大げさな賞賛を受け入れてしまう感覚も、信頼しきれない。もちろん、そういう描写が、うまく描かれているからこそ、観ている私たちも彼の真実と倫理を「疑う」ことができるのだ。

 4話完結の作品だが、途中、神村が何らかの目的のために嘘をついていること、考古学者なのに歴史や真実を曲げても構わないと思っているシーンもあり、末恐ろしくなる。しかし、彼自身にも彼なりの筋と、事情があり、自分をだましだまし生きていることがわかる結末へとつながっていく。真実とは何かを真摯に問う作品で、今観ても考えさせられるものがある。

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