ダン・フォーゲルマンの個性が炸裂 『ライフ・イットセルフ』が描く、人生がもたらす予期せぬ喜び

『ライフ・イットセルフ』が描く予期せぬ喜び

 2011年に公開されたコメディ映画『ラブ・アゲイン』を観た人はいるだろうか。

 主人公は、長年連れ添った妻エミリー(ジュリアン・ムーア)から突然離婚を切り出されてしまった生真面目な中年男キャル(スティーヴ・カレル)。バーに入り浸るようになった彼は、毎晩女子を”お持ち帰り”している若きプレイボーイ、ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)と知り合ったのをきっかけにイケてる不良オヤジに変貌していく。

 ところがナンパ指南役だったジェイコブはある日を境にバーに姿を見せなくなる。彼は真面目な女子大生ハンナ(エマ・ストーン)に本気で恋をしてしまったのだ。しばらく疎遠だったふたりが意外な再会をはたすのはクライマックスシーンだ。ジェイコブがハンナの両親のもとに挨拶に行くと、待っていたのはキャルだったのである。

 このオチには周到な伏線が張られている。四十代のキャルとエミリーは高校を卒業してすぐ結婚した設定なのに娘たちはまだ幼ない。またエミリーとハンナはいずれも赤毛だったりと、ヒントがそこかしこに示されているのである。

 公開当時、映画ファンを唸らせたこのトリッキーな物語構造が、一本だけの仕掛けではなく、脚本を書いたダン・フォーゲルマンの作家性と言えるものだったことを知ったのは、フォーゲルマンがクリエイターを務めた『THIS IS US/ディス・イズ・アス』(2016年~)を観たときだった。

 いまアメリカで最も高い人気を誇るこのテレビドラマの記念すべき第1回では、同じ日に36歳を迎えた4人の男女の姿が並行して描かれる。てっきり全員が現代に暮らしているのかと思いきや、ラストで意外な真実が明かされる。うちひとりは、ほかの3人の父親の36年前の姿だったのだ。フォーゲルマンは時間軸を交錯させることで、家族の繋がりを視聴者から隠し通したわけだ。

 女子大生の長女がいるのを明らかにしなかったキャル、父親が36年前の同じ誕生日に生まれたことを口に出さない3兄妹。こうした主人公たちを、文学の世界では「信頼できない語り手」と呼ぶ。読者をミスリードさせてサプライズを与えるこの手法は、主に推理小説で用いられてきた。フォーゲルマンはこれを家族ドラマに応用したのだ。

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