ダン・フォーゲルマンの個性が炸裂 『ライフ・イットセルフ』が描く、人生がもたらす予期せぬ喜び

『ライフ・イットセルフ』が描く予期せぬ喜び

 ここで映画は意外な跳躍を見せる。第3章『ゴンザレス一家』の舞台はニューヨークから遠く離れたスペインのオリーブ農園へと移るのだ。主人公である農夫ハビエル(セルヒオ・ペリス=メンチェータ)は顔見知りの女性イザベル(ライア・コスタ)と知り合って結婚、男児ロドリゴをもうける。前2章からは考えられない穏やかな展開だ。

 しかし平穏な人生にも波乱がある。無骨者のハビエルは自分とは正反対の繊細なロドリゴを理解できない。むしろ彼を深く理解するのは農園主のサチオーネ(アントニオ・バンデラス)の方で、彼はイザベルとロドリゴをまるで自分の妻子のように気にかけるのである。

 最近脂が抜けて渋みをぐっと増したアントニオ・バンデラスがサチオーネ役を好演している。フォーゲルマンはスペイン出身の彼を起用したいあまりに舞台をスペインに設定したのではないかと思ってしまう。私生活上のバンデラスも、妻だったメラニー・グリフィスの連れ子だったダコタ・ジョンソンを我が娘のように育てたこともあり、こうした役回りの説得力は十分だ。この第3章は第1章と対をなした構成になっている。ある事件が起きた後に、作品世界の表舞台から今度は夫のハビエルの方が去るのだ。

 第4章『ロドリゴ・ゴンザレス』の主人公は、成長したロドリゴである。演じているのはスペインではすでに売れっ子のアレックス・モネール。母の介護をしながら農園で働いていた彼は、サチオーネの援助を受けてニューヨークの大学に留学する。こうして舞台はニューヨークに戻り、全てが繋がる。一体何が繋がったのか。それはエピローグ的な第5章『エレーナ』を観て確認してほしい。

 人生には一部分だけ切り取ると、不幸としか言いようがない場面がある。しかしそんな出来事すら幸福な未来に繋がるものだったりする。人生はそれを生きている当人すら欺く「信頼できない語り手」なのだ。そんな人生がもたらす予期せぬ喜びを描くために、これからもフォーゲルマンはトリッキーな物語を創り続けるのだろう。

■長谷川町蔵
音楽や映画についてのコラムに加えて、フィクションも書いてる文筆家。近刊に『インナーシティ・ブルース』、大和田俊之氏とのシリーズ第三弾『文化系のためのヒップホップ入門3』など。Twitter

■リリース情報
『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』
DVD発売中

価格:3,800円(税別)
仕様:2018年/アメリカ/カラー/本編117分+特典16分/片面2層/MPEG-2/本編:16:9LB(シネマスコープ)/オリジナル音声:英語、スペイン語(ドルビーデジタル5.1ch サラウンド)/日本語字幕/1枚組/字幕翻訳:桜井裕子/映倫区分:PG12

【特典映像】
・人生は最高の物語
・指折り実力派俳優陣の競演
・真実を見通す監督の目線
・インタビュー映像(オリヴィア・ワイルド&ダン・フォーゲルマン/マンディ・パティンキン&オリヴィア・クック)
・劇場予告編

出演:オスカー・アイザック、オリヴィア・ワイルド、マンディ・パティンキン、オリヴィア・クック、ライア・コスタ、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラス
監督・脚本:ダン・フォーゲルマン
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:TCエンタテインメント
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