『イエスタデイ』が描く、世界を塗り替える音楽の力 名匠2人による“ビートルズを知らない世界線”

『イエスタデイ』が描く、世界を塗り替える音楽の力 名匠2人による“ビートルズを知らない世界線”

 コロナウイルスで激動の社会状況下ですが、皆さん、無事に映画は楽しめているでしょうか? 映画館は休業し自宅にいることが求められている現状にあまり根詰めていても仕方ないけれど、だからといって社会状況とかけ離れたものを気晴らしに観ているだけというのも辛い、という方には特におすすめしたい作品をひとつ紹介する。

 昨秋日本で公開になった『イエスタデイ』。鬱屈とした気持ちを吹き飛ばすようなコメディ、愛すべき音楽の素晴らしさに涙できる、ロックでポップなファンタジー作品であり、監督は『スラムドッグ$ミリオネア』『トレインスポッティング』のダニー・ボイル、脚本は『ラブ・アクチュアリー』『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』『ノッティングヒルの恋人』などラブコメディの名匠、リチャード・カーティス。そしてテーマはなんと言っても、“あの”世界中誰もが知るビートルズ。しかし今回、この英国映画界を代表するふたりが組んで手がけたのは、登場する人々のほぼ誰もが“ビートルズを知らない世界線”のお話だ。

 主人公のジャック・マリクは英国のサフォークでなかずとばずのシンガーソングライターをしているが、ある日、全世界で12秒間の停電が起きた時に事故に遭い、その後、目を覚ましてみるとそこは誰もビートルズを知らない世界になっていた。自分の記憶には確かに存在していてさらりと口ずさめるのに、持っていたはずのレコードもなければ、インターネットを検索したとてカブトムシしか検索結果に上がってこない。そんな世界の中でジャックがビートルズの名曲を歌えば、世界はどんどん熱狂し、SNSなどでも話題沸騰、一気に彼は世界のスターダムにのし上がっていくが……!? というパラレルワールドが描かれているが、とにかく細部までビートルズ愛、英国音楽と文化への愛が詰め込まれていてそれだけで拍手喝采、心があたたまる。

 しかもなんと、現行の世界的なポップス界を牽引する存在のひとりである“あの”エド・シーランが本人役で登場するのだが、もうその設定の全てにもいちいち笑ってしまう(ちなみに、この映画の主人公のジャックが住むサフォークという郊外の平和な町は、エド・シーラン自身の出身地でもある)。映画の前半、特に英国を中心にストーリーが展開するうちは、少なくとも3分に一度はくすっと、どころか声を上げて笑うポイントが仕掛けられているように感じられたし、日本でも名だたるスターが登場するカープールカラオケの映像などで恐らく知っている人も多いであろうアメリカの番組『ザ・レイト・レイト・ショー』や、エド・シーランのウェンブリースタジアムでのライブが再現されている場面など、圧巻の音楽劇でもありショービズの世界を描いた作品としての顔も持つ。英国人にとっての素朴さもある音楽、そして米国ならではのワールドワイドな音楽ビジネスとスターダムへの夢の道。その間で、自分だけが記憶を頼りにビートルズの名曲の数々を披露するだけで、世界がどんどん熱狂していくというこの滑稽さ。

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