前年比、1月~3月は36%減、先週末は90%減 明るいニュースは一つもない

映画興行、明るいニュースは一つもない

 3週前の本コラム(コロナウイルスで壊滅的な春興行 頼みの綱は『名探偵コナン』)では、4月17日公開の『名探偵コナン 緋色の弾丸』が予定通り公開されるかどうかに注目していたが、4月7日に日本政府から7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)に緊急事態宣言が出されたことを受け、今週から該当地域のほとんどの映画館が閉鎖されて、それどころの話ではなくなった。ここ数日の間に、5月中旬までに公開が予定されていた多くの作品が、公開日未定のまま公開延期となることが発表。『名探偵コナン 緋色の弾丸』は3月13日に一時期は発売が見合わされていた前売り券やムビチケも発売されていて、既に世界各地で映画館が閉鎖されていたその時点でも配給の東宝は公開を探っていたことが伺えるが、そこから3週間で状況はさらにドラスティックに変わった。

 現在の映画興行が、安定したヒットを見込めるシリーズ作品(ユニバース作品も含む)によって支えられているのは日本も海外も同様だが、日本特有の慣例としては、何十年にもわたってシリーズ作品が毎年1本(かそれ以上)コンスタントに製作されて、それぞれの作品の公開時期が厳密に年間スケジュールに組み込まれてきたことが挙げられる。1980年から2005年を除いて40年にわたってずっと「春休みに入る直前の週末」に公開されてきた『ドラえもん』。年に2作品ペースで、2009年以降は「幼稚園・保育園や小学校が春休みに入るタイミングの週末」に春作品が公開されてきた『プリキュア』。1993年に始まって、1994年から26年にわたってずっと「ゴールデンウィークに入る2週前の週末」に公開されてきた『クレヨンしんちゃん』。1997年から23年にわたって(2005年と2019年以外は)ずっと『クレヨンしんちゃん』と同日に公開されてきた『名探偵コナン』。現在のところ、長期にわたるシリーズ作品で公開延期となったのは以上のシリーズだが、それは単なる「公開延期」ではなく、これまで何十年も続いてきた製作と興行のサイクルが破壊されたことを意味する。そういう意味では、単純に半年から1年ほどの公開延期を発表してその後は玉突き的に数年間のスケジュールの中で調整していくであろう海外のシリーズ作品と比べて、より深刻な影響が考えられる。

 改めて思うのは、中心となる観客の世代が入れ替わりながら、これまで何十年もマーケットの軸となる作品が変わらなかった、『男はつらいよ』型とでも言うべき日本の映画興行の体質だ。変化を嫌い、新しい企画の壁にもなってきたであろうその体質は、平時には配給会社や興行会社に経済的安定をもたらすが、非常時にはより複雑な調整が必要とされることになる。国民1人当たりの劇場での映画鑑賞本数が年間1.53本(2019年。日本映画製作者連盟調べ)と極端に少ない日本では、映画鑑賞は観客の「習慣」に強く結びついてきた。映画興行にかかわらずあらゆるものが大きな危機に晒されている現在だが、映画興行において危機に晒されているものの一つはその「習慣」だ。

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