期待の新作はいずれも低調なスタート 先の見えない国内映画興行

先の見えない国内映画興行

 「今週になりまして、オーバーシュート、感染爆発でございますが、この懸念がですね、さらに高まっております。今まさに重要な局面でございます。都民の皆様方にはこの事をくれぐれもご理解いただきまして、平日につきましては、できるだけお仕事は、ご自宅で行っていただきたい。もちろん職種にもよりますが。それから夜間の外出についてもお控えいただきたいと存じます。この週末でございますが、お急ぎでない外出はぜひとも控えていただくようにお願いを申し上げます」。今週半ば、つまり東京オリンピック・パラリンピックの来年への延期が正式に決まる3月24日まで、他の自治体の知事のような新型コロナウイルスに関連する呼びかけをほとんどおこなってこなかった小池都知事。その突然の方向転換となった昨日(3月25日)の会見における警鐘によって、都内のムードは急変しつつある。当コラムで毎週報告してきたように、既に新型コロナウイルスは国内の映画興行に大きな影響を及ぼしているが、より一層の深刻化が予想される。既にアメリカでは、各大手シネコンチェーンの6週間〜12週間の一時閉鎖を受けて、先週末から興収集計の発表を取りやめるという、ボックスオフィス史上初めての事態が起こっている。

 先週末の動員ランキングで初登場1位となったのは『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』で、土日2日間の動員は8万1000人、興収は1億2300万円。同じマーゴット・ロビーが演じるハーレイ・クインがスクリーンに初登場した2016年9月公開作『スーサイド・スクワッド』(最終興収17.6億円)の初動興収と比べると31.5%の成績。初登場2位は『一度死んでみた』で、土日2日間の動員は6万7000人、興収は8600万円。広瀬すずの単独主演作としては前作にあたる、興行面でも失敗に終わった『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(最終興収9.5億円)の初動興収と比べても55.8%の成績。数字を見れば一目瞭然、いずれも期待されていた結果に遠く及ばない惨憺たる成績なわけだが、今回ばかりは平常時に公開された過去作との比較やその分析はあまり意味をなさないだろう。

 2月7日に全米公開されたばかりの『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、新型コロナウイルスによる映画館閉鎖を受けて、アメリカでは今週の24日から異例のウィンドウ(劇場以外のプラットフォームでの公開までのインターバル)の短さでワーナーからVODリリースされている。他にも、ユニバーサルは大ヒット中だった『透明人間』、『The Hunt』、『Emma.』をVODリリース済。4月10日に公開予定だった『トロールズ ミュージック★パワー』も同日からVODリリースされることが決定している。ソニーも公開中の『Bloodshot』をVODリリース済だ。

 このように、アメリカでは映画会社各社が独自の判断でVODリリースに踏み切ったのに対して、現状、日本ではこのような動きはまったく見られない。新作映画のVODリリースは、もちろんPCなどでも視聴可能だが、その価格設定も含めて、基本的には自宅のテレビで複数の観客によって同時視聴されることを念頭においてこれまで業界内で検討されてきた方法だ。日本では、企業のスピード感のなさと横並び体質、興行会社の利権との調整、大型テレビの普及率(居住環境と販売価格の両面でアメリカとは状況が大きく異なる)、テレビのインターネット接続率(普段からNetflix、Amazon、及び各ケーブルテレビ局のストリーミングサービスでテレビを視聴するのが前提のアメリカとはこれも状況が大きく異なる)など、今回のタイミングで新作映画のVODリリースに踏み切ろうにも踏み切れない悪条件が揃っている。

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