『テセウスの船』が回を追うごとに支持された理由 他人事に思えない竹内涼真の奮闘

『テセウスの船』が支持された理由

 第9話で文吾の妻であり、心の母である和子(榮倉奈々)が「今度はなんなんです」と悲鳴をあげていたが、ほんとうに「今度はなんなんです」状態で文吾が追い詰められていく。最終回は、このように文吾を執拗に陥れようとしているみきおの共犯者は誰か、そこが焦点となる。

 笹野高史、六平直政、霜降り明星のせいや、今野浩喜、小籔千豊ら怪しい俳優たちがまだ残っている。この誰もかれもが怪しく、犯人を考察する楽しみは、2クールにわたり放送されたドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)的なところもあり、現代的である。また、俳優たちの怪演はTBS日曜劇場の企業ものでもお馴染み。タイムスリップものは10年前に最終回が視聴率25%を超える大ヒットを記録し、続編も放送された『JIN-仁-』(2009年、2011年)という前例もある。『テセウスの船』は、ヒット要素を抑えたドラマだったのである。

 タイムスリップして過去を変えることで未来をよりよくするという物語は、誰もの心によぎる“もし過去が変えられたら”……という気持ちに寄り添っているし、とりわけ東日本大震災から9年経過しながら、なお気持ちが落ち着かない日本人の願いでもあるだろう。だからこそ、懸命に過去を変えようとする『テセウスの船』の主人公の行動が他人事には思えないのである。

 それと、慎ましく生きてきた庶民が何者かの陰謀に巻き込まれ苦悩しながらも、家族の愛情を支えに真実を解き明かしていく様には、問答無用に心が揺さぶられるものがある。第9話で和子が、警察やマスコミの心ない追求を頑としてつっぱねる場面は、たくさんの共感を得たことだろう。

 はたして、心は父の罪をはらすことができるのか。……なんて、これで最後の最後で鈴木亮平が犯人だったら別の意味で傑作になるだろう。でもそんなの絶対いやだけど。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
日曜劇場『テセウスの船』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:竹内涼真、榮倉奈々、安藤政信、貫地谷しほり、芦名星、竜星涼、せいや(霜降り明星)、今野浩喜、白鳥玉季、番家天嵩、上野樹里(特別出演)、ユースケ・サンタマリア、笹野高史、六平直政、麻生祐未、鈴木亮平
原作:東元俊哉『テセウスの船』(講談社モーニング刊)
脚本:高橋麻紀
演出:石井康晴、松木彩、山室大輔
プロデューサー:渡辺良介、八木亜未
製作:大映テレビ、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/theseusnofune/

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