有村架純以外では成り立たない絶妙な企画 『有村架純の撮休』は二つの点で異色の作品に
一方、作品そのものの批評性がグッと上がるのが、今泉監督が担当した第2話『女ともだち』だ。こちらも、「撮休の日に女ともだちとゆったり過ごしていたら、その女ともだちと親しい男に紹介されることになる」というあるある話(いや、自分は人気女優じゃないので実際にそういう局面が「あるある」なのかはわからないが)。女ともだち役は伊藤沙莉、女ともだちの職場の同僚役に若葉竜也と、今泉作品でお馴染みのバイプレイヤーが登場することもあって、作品のテイスト自体は今泉監督ならではのライトなものなのだが、その内容はなかなか辛辣にして強烈。普段、有村架純が演じることの多い「男子が理想とする“かわいい”女性」像に対して、有村架純自身の口から容赦のない断罪がされる居酒屋のシーンでは、視聴者の誰もが息を呑むはず。個人的には、このシーンの存在だけでも、今回の『有村架純の撮休』という企画の意義は達成されたと思う。また、是枝監督が有村架純の「表情」にフォーカスを当てていたのに対して、今泉監督は有村架純の「身のこなし」にフォーカスを当てているのにも注目。自室のベッドの上でする変な足のポーズの癖など、まさに今泉作品の真骨頂と言えるだろう。
先ほど「有村架純像の8つのバリエーション」としたように、実際に監督の参加メンバーは5人だが、脚本家はすべてのエピソードが異なっていて、普段は自作の脚本も手がけている是枝監督は演出のみ、今泉監督も第6話『好きだから不安』の脚本は自身で手がけているものの第2話『女ともだち』の脚本はペヤンヌマキ。つまり、『有村架純の撮休』は有村架純という素材を元にした、それぞれの監督にとってだけではなく、それぞれの脚本家にとってもショーケース的な作品になっている。
ただ、自分が最も感心したのは、それぞれのクリエイターの期待に100%以上の演技で応えている、有村架純の女優としての多才さとポテンシャルだ。こんな面白い企画ならば、他の女優でも見てみたいと一瞬思ったが、それはきっと違うのだ。この作品の仕組みの面白さが万全に発揮されるためには、有村架純くらいそのイメージが広く認知されている女優じゃなければいけないし、そもそも「撮休」が特別なことであるほど超多忙な女優じゃなればいけないし、その上で演出や脚本を超えていく演技の基礎体力がなければいけない。結論として、2020年の日本において有村架純以外にはできない絶妙な好企画、それが『有村架純の撮休』だ。
■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「装苑」「GLOW」「メルカリマガジン」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter
■放送情報
WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』
WOWOWプライムにて、毎週金曜深夜0:00〜放送(全8話)
WOWOWメンバーズオンデマンドでは、各話終了後見逃し配信
TSUTAYAプレミアムでは、各話終了後配信スタート
出演:有村架純、柳楽優弥、満島真之介、伊藤沙莉、渡辺大知、笠松将、前野健太、リリー・フランキー、風吹ジュンほか
監督:是枝裕和、今泉力哉、山岸聖太、横浜聡子、津野愛
脚本:今泉力哉、砂田麻美、篠原誠、ペヤンヌマキ、ふじきみつ彦、三浦直之、津野愛、比嘉さくら
音楽:七尾旅人
主題歌:竹内アンナ「RIDE ON WEEKEND」(テイチクエンタテインメント・インペリアルレコード)
制作協力:ホリプロ
製作:「有村架純の撮休」製作委員会
(c)「有村架純の撮休」製作委員会
公式サイト:http://www.wowow.co.jp/drama/satsukyu/