シシド・カフカに見る、主演女優の輝き 『ハムラアキラ』で新しい女探偵の誕生

シシド・カフカに見る、主演女優の輝き

 役者というのはすごいもので、「これほどまでにハマるのか」と思うような「ハマり役」を日々あちこちで生み出し続けている(もちろんキャスティングをする人もすごい)。

 シシド・カフカが演じた『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』(NHK)のハードボイルドな女探偵、葉村晶もそんなハマり役の一つ。いや、さまざまな役者たちによるハマり役の中でも頭一つ抜け出ているぐらい、ハマっていた。

 葉村晶はミステリー好きの34歳・独身。ワケありの転職と転居を10数回も繰り返し、今はミステリー専門書店「MURDER BEAR BOOKSHOP」のバイト店員兼オーナーが道楽で始めた「白熊探偵社」の探偵をしている。性格はタフでクール。生活はシンプルというか質素。調査に手加減をしないため、何かと災難を呼ぶことから「世界で最も不運な探偵」と呼ばれることになった。

 原作は若竹七海による推理小説『葉村晶シリーズ』。すでに25年以上続いているシリーズだが、小説の中で葉村晶の容姿はほとんど触れられていない。ドラマ化に際して発表された「葉村晶からハムラアキラへ」という小文には「めだたない容姿」とだけ書かれていた。それに比べると、シシド・カフカが演じる葉村晶は十分目を惹く容姿をしている。

 身長175センチ。長すぎる手足に細い首。いつもモノトーンの服を着ているのは、黒い服を好むからチェコ語で「コクマルガラス」を意味する「カフカ」という名を名乗ったシシド・カフカ本人のイメージそのまま。黒のスキニーパンツとDr. Martensの10ホールブーツを愛用している。美人だが、周囲の誰からも「女」扱いされていない(それが観ていて気持ちいい)。モシャッとした髪型は、どこか伝説のドラマ『探偵物語』の松田優作を思い起こさせるが、ドラマの公式サイトには「新時代の『探偵物語』」と銘打たれているので、ちゃんと意識しているのだろう。前髪の奥に隠れている猫のような目は、たまにカッと見開かれる。

 シシド・カフカのルックスもクールなら、スタイリッシュな映像も(名古屋の街があんなにカッコ良く見えるとは)、菊地成孔による音楽もひたすらにクール。こんなに幸せな原作とドラマと女優(彼女の本業はミュージシャンだけど)の出会いがあるなんて思わなかった。原作のイメージをぴったりなぞっているからハマり役になったんじゃなくて、原作小説のエッセンスをスタッフとキャストがしっかり咀嚼したからハマり役になった。これまで日本になかったタイプの新しい女探偵の誕生だ。

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