『パラサイト』は“百花繚乱の時代”の象徴に? 『シュリ』から始まった韓国映画の20年

『パラサイト』までの韓国映画を振り返る 

 百花繚乱の時代に登場した『パラサイト 半地下の家族』

 かくして、映画ファン以外の人々にも広く認知されるようになった韓国映画は、以降そのジャンルの幅をさらに押し広げながら、もはや当たり前のように日本公開されるようになっていく。2012年には、80年代に青春の日々を過ごした女性たちの物語である『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)が、2014年には、同じくシム・ウンギョンが主演した『怪しい彼女』(2014年)が公開され、いずれも口コミを中心に高評価を獲得。それどころか、それぞれのリメイク版が、のちに日本でも制作されるなど(水田伸生監督、多部未華子主演の『あやしい彼女』<2016年>、大根仁監督、篠原涼子主演の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』<2018年>)、この時期になると、もはや韓国映画は、独自の歴史や政治背景を持ったローカルな作品ではなく、日本でも置き換え可能な良質のプロットを持った作品として受け止められるようになっていったのだ。ちなみに、2017年に大ヒットを記録した入江悠監督の『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』(2017年)は、韓国のサスペンス映画『殺人の告白』(2012年)の日本リメイク版である。

 しかし、この頃の韓国映画で、個人的に強く印象に残っているのは、2010年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」賞を受賞した『ハハハ』(2010年)をはじめ、“韓国のエリック・ロメール”と称されるホン・サンス監督の近作4本が、2012年に「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」というタイトルのもと、連続上映されたことだった。政治や社会とはそれほど関係ない、どちらかと言えばラブコメに近いけれど、主人公の男性は、いずれもそれほど若くないという、ある意味異色かつ軽妙なホン・サンス作品。それは、観れば観るほどハマっていくような、これまでの韓国映画にはない魅力を、確かに打ち放っていたのだった(ホン・サンス監督の映画は、2018年にも『それから』(2017年)をはじめ近作4作が連続上映されるなど、日本の映画ファンのあいだでは、依然として高い人気を誇っている)。

『お嬢さん』(c)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 その後も、『新しき世界』(2013年)や『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)といった“韓国ノワール”とも言うべきジャンルの秀作はもとより、上野樹里も出演した異色のファンタジーロマンス『ビューティー・インサイド』(2015年)、走り続ける列車とゾンビという組み合わせが画期的だった『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)。さらには、『チェイサー』(2008年)で一躍注目を集めたナ・ホンジン監督の作品で、日本からは國村隼が鮮烈な役どころを演じた『哭声/コクソン』(2016年)、パク・チャヌク監督が日本統治下の韓国を舞台に描いたエロティックスリラー『お嬢さん』(2016年)、1980年の光州事件時の実話を基とする『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』(2018年)。そして、村上春樹の短編を基にしたイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』(2018年)や、1997年に韓国を襲ったIMF経済危機を描いた『国家が破産する日』(2018年)など、以前にも増して秀作ぞろいの話題作が続々と公開。もはや韓国映画は百花繚乱の時代に突入し、映画ファンにとって欠くことのできない一画を形成するに至っているのだった。

『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 そして、昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝くどころか、このたびアカデミー賞という晴れの舞台で、作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞という4部門を受賞するという前代未聞の快挙を成し遂げたポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019年)である。アカデミー賞を受けて、日本ではそろそろ興収25億円に届きそうな勢いであり、近々『私の頭の中の消しゴム』の記録を抜くと目されている本作だが、その世界興収の合計は、すでに2億ドル(約220億円)を突破しているという。この映画の世界的なヒットは、今後の韓国映画にどんな影響を与えていくのだろうか。そして、日本はこれからの韓国映画を、どのように受容していくのだろうか。いずれにせよ今、韓国映画とそれを取り巻く状況は、さらにドラスティックな変化のときを迎えようとしている。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter

■公開情報
『パラサイト 半地下の家族』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督:ポン・ジュノ
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
提供:『パラサイト半地下の家族』フィルムパートナーズ
配給:ビターズ・エンド
2019年/韓国/132分/2.35:1/英題:Parasite/原題:Gisaengchung/PG-12
(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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