千葉雄大VS成田凌 『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』で呼応し合う“怪演”

千葉雄大VS成田凌、呼応し合う“怪演”

 うかない表情、それに反して力強い発声……加賀谷を演じる千葉雄大の様子がどうにもおかしい。彼を見ていると、冒頭からどうにも不安感が拭えない。やがて加賀谷の恋人(白石麻衣)が、ネットを使う“新たな凶悪犯”のターゲットにされるのだから、当然といえば当然だ。同じような状況に置かれたら、誰だっておかしくなることだろう。そのうえ犯人検挙のためには、天才的なネット犯罪者・浦野の存在が不可欠。刑事と犯罪者という真逆の立場にありながらも、彼と向き合うことは自身の過去(トラウマ)と向き合うことでもある。加賀谷のおかしさは、凶悪犯を前にした怯えとも取れるし、先述した共通性に依るものとも思える。このあたりのことを根拠とすると、千葉の演技に対して抱いてしまう不安感にも納得がいく。前作に引き続き、あからさまな挙動のおかしさを見せる成田のフィジカルな演技アプローチは、純粋に“怪演”と呼べるものだろう。むしろ前作以来さらにキャリアを重ね、そのヤバさには磨きがかかっているくらいだ。それに対して千葉は、演じるキャラクターの刑事という立場による社会的要請と、個人が抱えるトラウマによる未成熟な部分とのズレが見受けられる。ここで立ち現れる内面と外面とのズレが、彼の演技に反映されているように思えるのだ。このおかしさが、ある種の“怪演”として私たちの目には映るのである。

 もちろん、両者とも同種のトラウマを抱えているとあって、鏡のような対になるキャラクター同士でもあり、相互作用の関係にもある。成田が“怪演”を果たせば、それに千葉が呼応するかたちと見て取れるのだ。本作において両者の演技アプローチが違うことも、さらにそれを助長させているのだろう。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』
全国東宝系にて公開中
出演:千葉雄大、白石麻衣、鈴木拡樹、音尾琢真、江口のりこ、奈緒、飯尾和樹(ずん)、高橋ユウ、ko-dai(Sonar Pocket)、平子祐希(アルコ&ピース)、谷川りさこ、アキラ100%、今田美桜(友情出演)、田中哲司、北川景子(特別出演)、田中圭(特別出演)、原田泰造(特別出演)、成田凌、井浦新
原作:志駕晃『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(宝島社文庫)
監督:中田秀夫
脚本:大石哲也
配給:東宝
(c)2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会
公式サイト:http://sumaho-otoshita.jp/

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