『なぜオスカーはおもしろいのか?』著者が明かす、第92回アカデミー賞授賞式の注目ポイント

アカデミー賞の傾向に変化が?

――監督賞はいかがでしょう?

Ms.メラニー:監督賞はすごく悩んでいるところです。ポン・ジュノに監督賞を与えて、作品賞は『1917 命をかけた伝令』ではないかと何となく思うのですが、それをサポートする理論がない。DGA(全米監督協会賞)は、監督賞に関して的中率が高いのですが、今年はそこでポン・ジュノが獲らなかった。一方で、去年はアルフォンソ・キュアロンがDGAをしっかり獲っているので、その差は気になります。

――俳優はどのように選んでいるのでしょうか?

Ms.メラニー:今回、俳優は4人ともゴールデングローブ賞やSAG(全米映画俳優組合賞)と変わらないと思っていて、ホアキン・フェニックス、ブラッド・ピット、レネー・ゼルヴィガー、ローラ・ダーンですね。時間をかけないといけない箇所はほかにもあるので、なるべく労力を割かないようにしています。

ホアキン・フェニックス
ブラッド・ピット
レネー・ゼルウィガー
ローラ・ダーン(左)
previous arrow
next arrow
 
ホアキン・フェニックス
ブラッド・ピット
レネー・ゼルウィガー
ローラ・ダーン(左)
previous arrow
next arrow

――ほかに時間かけているところというと?

Ms.メラニー:年によって違いますが、今年は脚本賞に注目しています。WGA(全米脚本家組合賞)を『パラサイト』が獲ったので、オスカーでも続くのかが1番の関心事です。脚本は、クエンティン・タランティーノが強いんですよ。タランティーノは、作品賞と監督賞は獲ったことがありませんが、脚本賞はこれまでに2回獲っていて、今回も有力候補です。あと、『パラサイト』は外国語映画なので、話の展開は面白くても、セリフの面白さが評価できない。本当の意味でのセリフの機微が、字幕でどのように表現されてるかというところになってしまうので、すごく不利だと思います。それを踏まえた上で、どっちが獲るのか、すごく気になっています。タランティーノはWGAに加入しておらず、勝負が発生しなかったので、アカデミー賞でポン・ジュノとタランティーノの一騎打ちになると思います。

――アメリカだと字幕で映画を観る文化がほとんどないので、脚本やセリフの面白さを掴めないのはあるのかもしれません。

Ms.メラニー:何をもって脚本が面白かったというのかは人によって差があると思いますが、やはりセリフが1番分かりやすいですよね。なので、そこが評価できないのは懸念すべきポイントだと思います。

――本の中で、近年アカデミー賞の会員が多様性を意識して傾向も変わってきていると書かれていました。その辺り、明確に変わったと感じる部分はありますか?

Ms.メラニー:毎年、招待される人数がすごい勢いで増えているのは感じます。やはりこの10年ぐらいをかけて、少しずつ受賞作の傾向が変わってきていて。昔は戦争と言えば第二次世界大戦で、「ナチスもの」が獲るなど分かりやすかったのですが、最近は戦争ものと言ってもイラク戦争や中東のアルカイダを敵にした作品が獲るようになってきました。昔の戦争ではなくて、最近の戦争のほうが響くようになったのを感じます。あと、国内の人種差別問題を題材としたものもだいぶ受賞率が上がったように思います。それと、ドキュメンタリー作品は、その年の世相を反映しますね。

――インターネットの普及で、いろんな情報を探せるようになりましたが、予想屋的にはどうなんでしょう?

Ms.メラニー:やはり楽になりました。一昨年ぐらいに24部門中21部門を当てましたが、それは現代じゃなければできなかったと思います。去年は初めて短編3部門を全部当てたという、自分の中では1番の快挙があるんですけど、それもやはり全作品を観ることができたのが大きかったですね。

――受賞者のスピーチには注目が集まっています。

Ms.メラニー:受賞者のスピーチはやはり毎回すごく楽しみですね。でも、スピーチが下手な人とかは許せません(笑)。

――(笑)。最近許せなかったスピーチはありますか?

Ms.メラニー:今年のゴールデングローブのホアキン・フェニックスですね。本当にひどいスピーチだったのですが、直後に行われた重要なSAG授賞式では、私でも感動しちゃうくらいのすごく良いスピーチをしていました(笑)。

――逆に最近よかったスピーチはどういったものがありますか?

Ms.メラニー:やはり初めて受賞した人は、素直に喜びが溢れ出るので、感じが良いです。ここ10年くらいだと、エディ・レッドメインがめちゃくちゃ喜んでいて、すごくかわいかった。受賞が2回目になるとみんな余裕が出てくるので、スピーチの内容に主張が垣間見えてきます。それでよかったのは、『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットや『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンド。あと、今年のSAGでロバート・デ・ニーロが生涯功労賞を獲ったのですが、そのスピーチも良かったです。俳優という、一般人より声を聴いてもらえる立場にいる人間として、話をする機会を与えられたなら、政治的なメッセージははっきり伝える、と言っていました。自分のポリシーとして発言をしていて、説得力がすごかったです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる