『パラサイト』は2020年の『ROMA』か? 異例づくしの外国語映画がオスカー作品賞を獲る勝算
日本でも現在公開中の『パラサイト 半地下の家族』のアメリカでの快進撃が止まらない。北米で配給を行うインディペンデント系映画会社NEONは、アグレッシブな興行プラン、賞レースプランを立て、作品そのもののポテンシャルの高さと相まり数々の記録を作ってきた。
最初の波がやってきたのは、昨年10月に北米公開になった際。ポン・ジュノ監督とソン・ガンホが精力的にプロモーションを行い、TV出演や劇場でのQ&Aイベントなど、毎日のように彼らの姿をメディアで見かけた。先週はロサンゼルスのダウンタウンにあるエースホテルのシアターで、ハリウッド室内楽オーケストラによる演奏つき上映が行われた。興行収入はオープニングの週だけで40万ドル(約4400万円)を稼ぎ、現在のところ2800万ドル(約30億円)を計上、2019年の外国語映画興行収入の第1位となった。
第2波は、1月初めのロサンゼルス批評家協会賞で作品賞・監督賞・助演男優賞(ソン・ガンホ)に輝き、続いて第77回ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞。ポン・ジュノ監督は「わずか1インチの字幕というバリアを乗り越えれば、素晴らしき映画の世界が広がる。わたしたちの共通言語は“シネマ”だけ」という示唆に富んだスピーチを韓国語で行い、監督の言葉を常に的確に訳している女性通訳にも注目が集まった。そして、第92回アカデミー賞において、国際長編映画賞だけでなく、作品賞・監督賞・脚本賞・美術賞・編集賞の6部門にノミネートされるという快挙を遂げた。韓国映画は旧名の外国語映画賞時代から含めて初のアカデミー賞ノミネートで、いきなり作品賞にもノミネートされてしまった。この辺りから「異例づくしの『パラサイト』はどこまで行くのか?」とささやかれ始め、追い打ちをかけたのが第26回全米映画俳優組合(SAG)賞の作品賞であるキャスト賞受賞。この日はソン・ガンホはじめ5名のキャストが会場に入るとスタンディング・オベーションで迎えられるという歓待を受け、受賞が発表されると会場全体が祝福する満を持しての受賞だった。外国語映画が全米俳優組合賞のキャスト賞を受賞するのは史上初で、“初”づくしの『パラサイト』に大きな栄誉が追加された。
『パラサイト』はまさに今年の賞レースにおけるダークホースであり、大本命の1本なのだが、わずか11カ月前に同じように話題を独占していた『ROMA/ローマ』のことは覚えているだろうか。メキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督が個人的な記憶の断片を美しいモノクロ映像で綴ったスペイン語作品は多くの人々の心を捉え、第91回アカデミー賞では外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3冠に輝いた。だが、『ROMA』の悲劇は、配信事業者のNetflixによる作品だったことから作品単体への評価ではなく、“劇場vs配信”の議論に巻き込まれてしまったことだ。『ROMA』は作品賞や主演・助演女優賞など主要部門にもノミネートされたものの、外国語映画という文脈ではなく配信映画をどう評価するかの議論に終始し、作品賞に手が届くかどうかのギリギリのところで、映画は劇場で観るものという保守層が流れを作る結果となった。ちなみに数字でいうと、『ROMA』は劇場公開をしたものの、Netflixは正式には興収を明かしていない。前哨戦の記録では、第75回ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞し(ちなみに昨年の金獅子賞は『ジョーカー』)、英国アカデミー賞では作品賞・監督賞・外国語映画賞・撮影賞の4冠に輝いた。今年『パラサイト』に作品賞を授けたロサンゼルス映画批評家協会賞の作品賞と外国語映画賞も同様に受賞している。
Netflixは今年の賞レースに、マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』、ノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』、フェルナンド・メイレレス監督の『2人のローマ教皇』を投入し、アカデミー賞において計24ノミネートを獲得。これはスタジオ別ノミネーション数のトップで、昨年は『ROMA』が10部門、計15ノミネートだったことを考えると飛躍的な数字となった。