『スカーレット』における理想の夫とは? 信作と百合子はどんな家庭を築くのか
気がかりなのは八郎である。入婿の八郎は両親を早くに亡くして年の離れた姉に育てられたせいか、夫また父としての気負いが見え隠れする。特に陶芸展で金賞を取ってからの八郎は、プライドと自信のなさの狭間で揺れる場面が増えた。喜美子に対する口調もどこか抑圧的なトーンがにじんで見えたが、喜美子から「ハチさんに足りひんのは信じる力や」と指摘された99話で、ついに家を出てしまった。
象徴的だったのが、99話の縁側で語り合うシーン。夢を抱いていた結婚前の雰囲気はかろうじて夫婦ノートを綴ることで保たれていたが、結婚して10年たっても互いに知らないことがあるという事実に2人は愕然とする。そして、知っていてもどうしても受け入れられないことがあることにも。直接的な原因は穴窯を続けるべきかだが、まっすぐすぎる喜美子と真面目すぎる八郎の間に別れが訪れることは、避けられないことだったのかもしれない。
近年の朝ドラの傾向として、特にヒロインに対して、いわゆる「良妻賢母」を求めないという点が挙げられる。生き方が多様化し、夫婦ともに添い遂げることが現実的に難しい時代背景を踏まえてと思われるが、そんな中で、いちばん身近な場所で時間をかけて愛を育んできた信作と百合子の姿は、なおのこと貴重なものに見える。信作から百合子への「ゆっくり夫婦になろう」という言葉には、これまでの2人の関係性を無理に崩すのではなく、家族や周囲の人々も交えて、時間をかけて家族になっていくという含意が感じられる。観察眼が鋭く、相手の気持ちをじっくり考える信作らしい言葉だと思う。
結婚後の信作と百合子の関係性は今までとそう変わらないだろう。しかし、常治がいない女系家族の川原家、とりわけ喜美子にとっては、そのつかず離れずのスタンスこそが最高の解毒剤なのではないか。すでに99話で結婚の挨拶を切り出そうとしてフライング気味にドタバタ劇を披露するなど、息の合った滑り出しを見せた信作と百合子である。「喜美子にとっての俺の役割は、笑われること、呆れられこと、アホやなあと思われること」と自認する信作と百合子の夫婦が、喜美子が理想の色を追求するドラマ後半にかけて存在感を増していくことは間違いない。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、松下洸平、富田靖子、大島優子、林遣都、福田麻由子、黒島結菜 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/