ポストジブリという問題設定の変容、女性作家の躍進 2010年代のアニメ映画を振り返る評論家座談会【後編】

SNSとアニメーション

――2010年代はSNSとアニメの関係も切り離せないと思います。やはりTwitterなどのソーシャルメディアの発達がファン同士のつながりを強くし、作り手と観客の距離も近くなりました。

藤津:映画というよりはTVで顕著ですよね。特にTwitterはリアルタイム性があるのでテレビとの相性が良くて。深夜アニメは視聴率があまり関係ないので、Twitterでどれくらい呟かれてる、公式アカウントフォロワー数が盛り上がりの1つの目安になる。そこで厄介なのは、配信の時代になると、いつ見ても良いので、ファンが可視化されにくくなってくること。だから僕は配信アニメもどこかでテレビアニメと組み合わせないと作品の認知や、作り手のお客に届いてるという手応えが薄まってまうのではないかと危惧しています。

渡邉:そういえば、Twitterの「バルス祭り」も2010年代ですよね。映画に関しては、SNSと紐づくことによって興行成績がある意味ニコ動ランキング化・pixivランキング化してしまう気がしています。一番印象的だったのは2014年の『アナと雪の女王』で、『千と千尋の神隠し』のヒットの仕組みとはまったく異なっていました。主題歌の「レット・イット・ゴー~ありのままで~」がYouTubeにアップされて一気に拡散され、興行ランキングを瞬く間に駆け上がっていった。それが『君の名は。』や『シン・ゴジラ』にもつながっていっている感じがします。そのヒットの構造は、90年代や2000年代初頭の『千と千尋』とか『踊る大捜査線』とはまったく違うし、非常にSNS的になっている。Twitterのトレンドのように一気に拡散して急激にしぼんでいく、脊髄反射的な一過性のものになっている気がするんです。

 情報社会論でフローとストックと言いますが、フローの部分が映画興行のpixivランキング化だとすれば、他方、ストック的な側面もあって、それはYouTubeで若い人たちにとって昔のアニメが普通に見れるので、うちの学生も昔のアニメをよく知ってるんです。ただYouTubeで見てるから全部は見てないというんです。僕の世代はYouTubeがなかったから、昔のマニアックなアニメはVHSも全然なかったけど、今の学生はむしろ今のトレンドにも脊髄反射的について行きつつ、80年代アニメも動画サイトにストックされた断片で見ていたりする。アニメとかポップカルチャーに親しんでいる年齢層が上がっているので、お父さんがアニメ好きという世代もあって、昔の作品も時間が止まったように受容されている、一方で映画興行のpixivランキング化という二層構造がある気がするんですよね。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(c)2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

藤津:単純に口コミが強くなりましたよね。『この世界の片隅に』も片渕須直監督は10年前『マイマイ新子』のときにTwitterで上映の拡散をしていて、その時の草の根が『この世界の片隅に』のヒットにつながっています。WEB『美術手帖』で片渕監督とのんさんの対談の司会をやったときに、お互いに意外な面を聞くとのんさんが、「監督はいつもスマホでTwitterをやっている」と言っていて。片渕監督は「やはりお客とつながることがこれだけ映画を支える強さになるんだ」ということをおっしゃっていて。作って渡したらそれで終わりじゃないんだということも含めてTwitterの力は計り知れない。今年は『プロメア』がそうで、現代らしいヒットでした。

杉本:『プロメア』は最初初登場8位でその後は圏外でしたが、それが14億まで成績を伸ばしたのは驚きでした。右肩上がりに興行が伸びる作品がここ数年すごく増えていますね。顕著なのは『カメラを止めるな!』ですが、とりわけアニメ作品に多く、『若おかみは小学生!』もそうでした。

藤津:アニメは、一度コアなファンを捕まえるとそこをハブにして、少ない上映館で長く上映することができるようになったので、Twitterでの口コミ効果は計り知れません。そういった環境に水を差すことになったのが『アナ雪2』です。あのようにステルスマーケティングで炎上してしまうと口コミへの信用がなくなってしまうので、これまでの良い流れに対してあまりよろしくないですね。

杉本:おそらく後から振り返って象徴的な事件になると思います。口コミを使った作品の拡散について、今後少し流れが変わるかもしれません。

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