ポストジブリという問題設定の変容、女性作家の躍進 2010年代のアニメ映画を振り返る評論家座談会【後編】
女性作家の躍進も1つのテーマに
杉本:女性ファンというところだと、この間『週刊少年ジャンプ』のジェンダーバランス問題が炎上しました。就活生が説明会で「女性は『ジャンプ』の編集にはなれませんか?」と質問したら、実際の編集者に「前例が無い訳ではありませんが週刊少年ジャンプの編集には『少年の心』が分かる人でないと」と言われたという。現在の『少年ジャンプ』はかなり女性の読者層が多く、女性向けにチューニングしたわけではなくてもその結果になっている。最近の最たる例は『鬼滅の刃』です。
藤津:僕はもう、男性向け、女性向けと細かく考えすぎないほうがいいと思っています。コンテンツが誰のものかと議論しても難しいなと。
杉本:僕も10年代は男向け女向けというカテゴリーが融解した状況になったと思うんです。それに気づいたのは『おそ松さん』でした。下ネタを連発するなど従来の考え方では女性向けとは思えない作品ですが、女性ファンが多かった。
渡邉:『銀魂』もそうですよね。
藤津:『銀魂』は普通に男性ファンもいるわけですよね。「少年の心」問題に関しては、男女を問わず、自分の好みを差し置いて、単純に編集者が読者にどれくらい寄り添えるかということを言えばよかったのに、と思いました。
渡邉:女性ファンが台頭してきた2010年代は、他方で女性監督の躍進もトピックとしてあるのでは。アニメだと、『澱みの騒ぎ』の小野ハナ監督が毎日映画コンクールの大藤信郎賞を女性で初めて受賞し、その後、『リズと青い鳥』で山田監督が続きました。今後も才能ある作り手がどんどん続いてほしいです。
杉本:TVシリーズの監督で女性の名前を聞くことは増えていますよね。長編映画だとまだなかなか山田監督以外出てきていない印象ですが。2019年は京アニの藤田春香さんが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』で監督デビューしましたし、これからが楽しみですね。
藤津:ベテランだと『プリパラ』の森脇真琴さんから、注目の若手で『ノーゲーム・ノーライフ・ゼロ』で映画デビューした、いしづかあつこさんまで、いろいろいらっしゃいますよね。TVアニメだと、京アニ出身の内海紘子さん、高雄統子さんがそれぞれ『BANANA FISH』『アイドルマスター シンデレラガールズ』という代表作を作っているので、この2人はいつかオリジナルの長編映画を手掛けることがあるんじゃないかなと思っています。また東映アニメーション出身で、『血界戦線』の松本理恵さんなどいろんな方が続々と出てきているので、女性監督はこれからどんどん増えていくでしょうね。
杉本:2019年の『劇場版 名探偵コナン 紺青の拳』の永岡智佳さんも女性ですね。脚本家ですけど岡田麿里さんも『さよならの朝に約束の花をかざろう』で監督に挑戦しました。
――岡田麿里さんでいうとTVシリーズではP.A.WORKSも10年代を代表するスタジオですね。
杉本:P.A.は、聖地巡礼現象に強く貢献しましたね。『花咲くいろは』に出てきた湯涌ぼんぼり祭りは今も続いており、アニメ発で始まったお祭りが地元の祭りとして定着し始めています。
藤津:聖地巡礼はいろんな企業が挑戦していますけど、P.A.WORKSはやはり地方にスタジオを置いてるのもあって、スタジオが率先してやってるというのが特殊だと思います。
杉本:聖地巡礼という現象は、社会とアニメとの結びつきがすごく強くなったことの現れなのかなという気がします。2020年熊本の復興PRのテレビアニメ『なつなぐ!』が放送されますが(現在放送中)、地元の復興のためにアニメが作られる時代になったのかと感慨深いです。アニメは世の中の現実をあまり描かないとよく言われますが、実はすごく現実とかかわってきた10年間だった気がしますね。