作りたい喜美子と作れない八郎 『スカーレット』才能の狭間で揺れ動く二人の関係

『スカーレット』作りたい喜美子と作れない八郎

 八郎(松下洸平)と喜美子(戸田恵梨香)の気持ちが徐々にすれ違い始めている連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第87話。作りたい喜美子と作れない八郎にできた溝は広がるばかりであった。

 窯業研究所のひろ恵(紺野まひる)から仕事の相談を受けた喜美子は、大量で急ぎの納品にも関わらず発注を受けてしまう。話を聞いたあと家に帰ると、そこには大きく口を開けて笑う三津(黒島結菜)と八郎の姿があった。喜美子が笑っている理由を聞くと、三津の描いたディナーセットのデザイン画が下手だということらしい。さらに八郎は、週末に個展会場の下見に銀座に行くと言い出した。ディナーセットを作る話も、会場の下見の話も全く知らなかった喜美子はショックを受ける。しかし八郎は悪気もなく、三津と決めたと言うのであった。八郎の今のインスピレーションの源は三津だ。三津が自分の足でコツコツ集めた情報と、八郎を急かさない前向きな言葉かけこそが、今の八郎を支えている。

 さらに八郎の個展用の焼き物は、今まで八郎が目指していた芸術作品ではなかった。それを問い詰める喜美子だが、「今は昔の作風に戻ろうと思ってる。結婚する前のころの作品に戻ろうと思ってるねん」と言う。八郎にとって、作品作りの苦悩から脱するには原点回帰しかなかった。しかしそれは同時に、喜美子と歩んできた日々を“なかったこと”にしてしまうことでもある。八郎にとって喜美子は脅威だった。良い刺激だった喜美子の才能は、だんだんと八郎を追い詰め、負担になっていく。そんな喜美子の刺激から逃げ、もう一度自分なりの“陶芸”を模索するのが今の八郎なのだ。

 しかし喜美子はそれでは納得いかない。東京に行くことや、作る作品のことを相談しない八郎にどこかもやもやとした気持ちを抱えていた。それでも40組200枚という大量発注を受け、喜美子はすでにデザインまで考えていた。個展を控えた八郎もまた、同じ電気釜を使わなければならないのに、喜美子は短期納品の仕事受けてしまい八郎は言葉を詰まらせる。だが「作りたいんやろ? ほんまは作りたいんやろ」と喜美子を責めずに喜美子の作品を応援した。喜美子は八郎の去った後の部屋でも一心不乱にデザインを描いている。

 前半、八郎の“作れない”ことへの苦悩や、情報を頼りにインスピレーションを得て丁寧に紡いでいく作風に反して、後半は突発的で常に“衝動”に突き動かされながら作る喜美子の作風が描かれる。二人は夫婦として共に歩むには、お互いの欠点を補い合えるいい関係であったが、作家同士となるとまるでタイプが違い、作品の話をすると徐々に気持ちがすれ違ってしまうようだった。

 それでもお互いを愛する気持ちは変わらない。生み出す苦しみと才能のはざまで揺れ動く二人の関係は、今後どう変化するだろうか。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、松下洸平、黒島結菜、マギー、紺野まひるほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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