『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、追加シーンによって何が変わったのか
片渕須直監督は、すずさんのパーソナリティに近い、より自然なセリフとして、食材について言及する変更をくわえたと説明しているが、そうだとすれば、すずさんの可能性を甘く見ているのではないだろうか。女性が政治的に先鋭化することが不自然で、常に“生活者”であると感じているのならば、そこには幾分の偏見が含まれているように感じてしまう。また、もしそれがただの言い訳で、仮に政治的な意味で原作者の打ち出した、魂を絞り出すような言葉の強さを意図的にスポイルしたのだとすれば、さらに問題である。
本作に反戦的なテーマが含まれていることは疑いようもないが、このソフトな表現への改変によって、誤読を生む可能性を増やしてしまったのは事実だ。そしてそれが、『この世界の片隅に』を、日本人の多くに受け入れやすいものにしているようにも思われる。だが、この原作を映画化するならば、クライマックスのセリフの強さだけは守らなければならなかったのではないだろうか。素晴らしい映画化作品であることを認めつつも、この部分は心残りである。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
テアトル新宿、ユーロスペースほかにて公開中
声の出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓/花澤香菜/澁谷天外(特別出演)
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)
監督・脚本:片渕須直
製作統括:GENCO
アニメーション制作:MAPPA
配給:東京テアトル
後援:呉市・広島市・日本赤十字社
製作:2019「この世界の片隅に」製作委員会
(c)2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト:ikutsumono-katasumini.jp