年末企画:杉本穂高の「2019年 年間ベストアニメTOP10」 劇場アニメが類を見ないほど豊作の年に

杉本穂高の「2019年アニメTOP10」

以下、各作品の選考理由を簡単に記していく。

・『さらざんまい』
昨今、様々な個性を持ったアニメ作家が登場しているが、ベテランの超個性派、幾原邦彦監督が健在をアピール。他の追随を許さない個性を見せつけてくれた。

・『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
祖父を探して北極点を目指す少女の艱難辛苦の旅を描いた冒険映画。今年一番ワクワクした映画だった。

・『天気の子』
『君の名は。』のあれだけの大ヒットの後にこれが作れるのはすごい。作家性も深化し、現代性もある。これから黄昏の時代を迎える日本の青春映画とはこういうものなんだろう。

・『幸福路のチー』
まず脚本が抜群に素晴らしい。台湾現代史と個人史の見事なハーモニー。韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』を思い出した。オーナメントのシーンは出色。

・『BEASTARS』
弱者に生まれた悲劇もあれば強者に生まれた苦しみもある。多様性とは綺麗事ではないことが描けている素晴らしい作品だ。

・『スパイダーマン:スパイダーバース』
今年最もセンセーショナルな作品だったことは間違いない。アニメーションは絵なのだから、もっと自由にいろいろな絵のスタイルがあってよいのである。後年、この作品の登場が転換点として語られるかもしれない。

・『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』
泥中の蓮という言葉がある。「汚れた環境の中にいても、それに染まらず清く正しく生きるさまのたとえ」なのだが、2019年、この作品の存在自体が泥中の蓮だった。たとえ世界にどんな悪意があろうとも、この作品の美しさはいささかも揺らがない。

・『エセルとアーネスト ふたりの物語』
平凡に生きて、平凡に死んでいく。それがこんなにも尊いことだなんて。今年は数多くの海外アニメーションが公開されたが最も強く心を揺さぶる作品だった。

・『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
2016年の『この世界の片隅に』とはまるで別の映画であり、既存のシーンもまるで別のものに見えてくる。このような葛藤を抱えてすずさんは日常をすごしていたのかと戦慄させられた。特別先行版は約2時間40分で、さらに3シーンほど追加されて2時間50分近くになるらしいが、それを観たらまた評価が変わるだろう。

・『海獣の子供』
地球に生命が生まれたのは途方もない確率の奇跡であり、その中で人間が社会というものを営むようになったのもさらにか細い確率の奇跡だ。私たちの日常はそんな奇跡の連続でなりたっている。途方も無い宇宙の神秘と私たちの日常はつながっているのだ。ここに私が生きていることも奇跡であり、宇宙の一部なのだ。

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