プロレスライターが見る『旗揚! けものみち』の面白さ ファンすら唸らせる治外法権な作品に?

 10月2日深夜、あるアニメの第1話が “バズった”。その作品名は『旗揚! けものみち』。主人公の覆面プロレスラー・柴田源蔵が異世界に転生し、召喚主の姫にジャーマンスープレックスを決め尻を丸出しにする“掟破り”なまでにキャッチーな冒頭でアニメファンの心を鷲掴んだのだ。そして第10話終了の現在も益々加速し、大団円へ向かって疾走中。今期の、否、群雄割拠の2019年度アニメの覇権をも伺う勢いである。そんな本作の魅力を、現役プロレスライター視点でお届けしたい。

アニメ史に残る完璧な第1話

暁 なつめ (原著), まったくモー助 (著), 夢唄 (著)『けものみち』(角川コミックス・エース)

 現在、深夜アニメにおいて、第1話は非常に重要である。『魔法少女まどか☆マギカ』のように「3話まで観てわかる」作品もあるが、1話さえ観きれないのが現実。OP含む冒頭の数分間でいかに視聴者を掴むかがその作品の帰趨を決する時代となっている。

 歴史に残る名作も概ね1話から傑作である。例えば1979年放送の『機動戦士ガンダム』。故・永井一郎の名調子で時代背景を説明し、同じロボットが3体出てくる斬新な描写で度胆を抜き、その奇襲を受けて少年が主人公メカに乗り込み闘わざるを得ない状況へ雪崩れ込む。この淀みのない流れは庵野秀明監督に完璧だと称賛され、『新世紀エヴァンゲリオン』第1話で主人公が闘う理由として重傷の綾波レイを登場させた。

 翻って『けものみち』第1話。主人公のケモナーぶりを説明し、突然異世界に召喚され「おぞましい獣たち」と言い放った姫を怒りのジャーマンで投げ捨てるまでの冒頭をキッチリ5分で描き「現代アニメの導入部はこう造れ! 」というお手本のような完成度である。

 そもそも異世界が舞台だとその世界観を説明する必要から感情移入に一定の時間を要する。「異世界モノ」という括りが確立して久しいが、ジャンル自体を食わず嫌いする層も存在する(実は筆者もそうであった)。しかし本作は、その無軌道な冒頭で、笑わせると同時に異世界への障壁を破壊した。

DDTプロレスリングとの強力タッグでプロレスファンもKO

 アニメファンにとってジャーマンスープレックスと言えば「ケモナージャーマン」ということになった2019年だが、プロレスを題材にするには「真面目なプロレスファン」への配慮も欠かせない。

 プロレス「ファン」と呼ばれることにさえ嫌悪感を示し、直木賞作家・村松友視氏の定義したプロレス「者」という呼称を愛する“真面目”な層の中には、プロレスをギャグのネタにすることを嫌う人が少なくない。

 かく言う筆者も、ロメロスペシャル(別名吊り天井。4話でカーミラが受けた)を下ネタの文脈で使って“執拗なお叱り”を頂戴したことがある。それぐらいプロレスはデリケートな存在であり、「ジャーマンで尻が丸出し」などという下ネタは非常に危険。

 しかし本作はDDTプロレスリング(以下DDT)とタッグを組むことで、それらの批判を封じた。DDTは「文化系プロレス」と言われるほどに、興行内容が他のプロレス団体とは一線を画しており、その空気感はアニメ公式サイトで公開されている再現動画「今週のけものみち」で確認できる。

 解説のスーパー・ササダンゴ・マシンは、パワーポイントによるプレゼンを試合前に行うことが定番となっている怪人。動画の#1でアルテナ姫役を演じた坂崎ユカは、魔法の国へ武者修行に行った魔法少女を自称し、得意技はマジカル魔法少女スプラッシュという、書いてて「え?」となるような選手だ。

 極めつけは、作中のライバルレスラーのモデルにもなったMAO。「ブレーキの壊れたダンプカー」と形容されたレスラーがかつていたが、MAOは「路上プロレス」でDDTの社長を社用車で物理的に牽いた、とんでもない選手。そんな何でもアリのDDTと組んでいれば、プロレス技で笑いを取ることも言わば治外法権として扱われるのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる