『スカーレット』は“関西らしさ"を押し出した朝ドラに 喜美子の生活の中に溢れる笑い声
放送中の連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)33話で戸田恵梨香演じる川原喜美子は、父・常治(北村一輝)がつくった借金を数えながら、そのあまりの多さに声を上げて笑ってしまう。それを見ていた母・マツ(富田靖子)もつられて笑い出す。度重なる困難にも負けず、女性陶芸家として道を切り開く喜美子の姿を描いた同作のカギを握るのは「笑い」の要素だ。
喜美子のまわりには笑いがあふれている。女中として働いていた「荒木荘」の下宿人・雄太郎を演じるのはお笑いコンビTKOの木本武宏で、雄太郎が給仕をつとめる喫茶「さえずり」のマスターはオール阪神・巨人のオール阪神。また、喜美子に女中のいろはを教える大久保役の女優・三林京子は上方落語の三代目桂すずめとして高座に上がる。
芸人が役者の仕事をすることは珍しいことではないが、特筆すべきはその密度の濃さだ。木本や阪神のほかに、コントユニット・ジョビジョバに所属するマギーや吉本新喜劇の座長を務めた辻本茂雄、お笑いコンビ・プリンプリンの田中章が出演しており、さまざまなルーツを持つ笑いのDNAが『スカーレット』には奔流のように流れ込んでいる。
足かけ6か月という長期間にわたる連続テレビ小説は、東京、大阪の各局が半期ごとに制作を受け持つ。『スカーレット』はNHK大阪放送局の制作で、これまでの作品もそうだったように舞台を近畿圏に設定。今回は陶磁器で有名な信楽町(滋賀県甲賀市)を中心に、大阪の風物や京都出身の人物も登場する。テレビをつければローカル局でトークショーが流れるなど生活の中に笑いが溶け込んでいるのが関西の文化だが、随所に笑いのエッセンスがまぶされた『スカーレット』もまさしく関西発のドラマと言っていいだろう。
ただ、同局の制作による『わろてんか』や先ごろ発表された2020年度後期放送予定の『おちょやん』と比べると、それらが吉本興業の創業者や松竹新喜劇の看板女優を主人公のモデルとしていたことに対して、『スカーレット』は笑いや芸能を正面から取り上げているわけではない。劇中でも、俳優としての雄太郎は端役止まりだし、同じく荒木荘の住人・ちや子(水野美紀)は記者として芸能に携わることがあっても、物語全体から見れば傍論にすぎない。『スカーレット』で描かれているのは、意図して笑わせるというより、あくまでも生活の中にある自然な笑いなのである。